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:少年期への回帰 掘骨砕三のSF短編集
2010-02-01 09:29:28
By:笛地静恵
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掘骨砕三(ほりほねさいぞう)と読みます。「掘る」は「堀(ほり)」ではありません。以下のマンガを再度、紹介させてください。笛地は、ある方から薦められて読みました。大変な才能だと思います。

ヤングチャンピオン烈コミックス
『クロとマルコ』
秋田書店
2009年7月20日 初版発行
定価 552円+税



作者は、成年マンガで独自な活動をされていた方です。今回は「エロ」を封印し、新しい分野に挑戦されています。



作者の作品には、もとから普通に社会的な存在としてできあがった、大人という枠組みを取り払う力がありました。乳幼児期という混沌とした世界に立ち返ることで、もう一度、全く新しい視点から、性的な営みの意味を探るという志向がありました。性は、食と同様に生物としての人間の根底であるという洞察があります。現代の男女関係の、性の不如意に悩む男性には、優しい癒しの効果がありました。



フロイト心理学は、人間の性心理の発達を、主に三つの時期に分けています。誕生から1歳半までを「口唇期」と呼びます。肉体的には全く無力な存在です。母親から授乳されることで命をつないでいます。口唇への刺激から満足感を得ることで、性感が芽生えていきます。二番目が「肛門期」です。1歳半から3歳には、母親から排泄と清潔のしつけが行われます。排泄器と排泄物への意識が芽生えてきます。三番目の3歳から6歳ぐらいまでの「男根期」には、身体的な成長と性器への意識から、男女差への関心が高まっていきます。掘骨の作品は、男女が分化される「男根期」(『はんぶん娘』等々、多数)以前へと退行させてくれます。それだけではありません。大便と小便によって快感を得ていた「肛門期」(『閉所愛好会』)へと。そのさらには自分と世界が未分化であった混沌の「口唇期」(『下水街』)へと猛烈な力で回帰させてくれます。稀有な才能だと思います。成年マンガに、ほとんど類似の作品がないという点では、孤高の詩人でしょう。



 今回の短編集は、少年向きのSF作品集としての完成度が高いと言えます。成年マンガが、乳幼児期への退行の経験だとすれば、今度は少年時代に回帰させてくれます。大人と社会が、自分に何かの秘密を隠していると感じる時期です。



直接にGTSフェティシズムと関係するのは、以下の二作でしょう。



「鼠と龍のゲーム」

 ファンタジー作品は、いろいろとありますが、ここでは「龍」という不思議で神秘な存在に、私達は出会うことができます。顔と胸が女性の巨大な龍が登場します。同時に龍の捕獲の仕事を淡々とこなしていく、大人達の姿が、印象深く描写されていきます。そこには、神秘も何もありません。強靱な日常性があります。

「湖のひみつ」
ダムのある山奥の村。鯉の養殖によって生計を立てています。親友のところに遊びに行ったある若者の体験。何もない村。作物は育たずに貧しかったことでしょう。タイシサマという名前で呼ばれる生物がいます。水の中に泳いでいますが、人間の小さな少女の格好をしています。「ここでは喰わねえ」という友人の言葉。何もない貧しい村。魚だと断言する村人。魚の大きさは、水槽の大きさによって決定されるというところがあります。するとダムを水槽だと考えれば?クライマックスの大きな見開き2ページの巨大感は素晴らしいものです。大人には、湖水の村の秘密とは何なのか、すぐに分かります。しかし、子どもはどうでしょうか?後で思い出してトラウマになることでしょう。怖いです。若者には分からない知識を隠し持っている老人達。世界は秘密を隠しています。



「クロとマルコ」
アステロイドベルトに住む二人の子どもの物語。「医療用農作物」で栽培した手足を付けています。いろいろと取り替えることが可能。現在の人類の文明が、歴史の彼方になってしまった遙かな未来。遙かで悠久の時が流れているという遠い距離の感覚。時間の長さを空間の距離のように認識させられます。無数の小惑星に分化される以前の惑星への憧れ。SFの醍醐味。たまりません。作中では、ある学者が生物の多様性についての新しい学説だと考えている意見を、得意そうに開陳します。読者は、今の遺伝子についての知識から、彼の知見が不完全なものだとすぐに分かります。しかし、ある知識が発見されていく過程に立ち会っている、ぞくぞくするような感動をおぼえます。子どもに知識を与えてくれる、はっきりとした大人の姿があります。




「Desdcentes dユorganes」
大人達が隠している秘密が、圧倒的な力で少年に迫ってきます。恐怖マンガの名作。



「翼のざわめき」

「キスをすると子どもができる」という都市伝説は子ども時代に、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?半信半疑であっても、女性という存在への畏怖を、何とはなしに感じさせてくれる話でした。掘骨の詩情が光る佳品。


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