曽祢まさこ作品
公開日:2000.10.17
更新日:2004.09.17
■あらすじ 《プロローグ》
イギリスはソールズベリーのいなか町。町はずれの古いお屋敷。もと貴族、コンウェイ家の朝から、物語は始まります。
ルネとクライドは相思相愛。ルネはコンウェイ家の一人娘。クライドはコンウェイ家の使用人。立場の違いなどふたりには全然関係のないことだった。その朝コンウェイ家の当主、つまりルネの父に見つかるまでは、二人の間になにも問題はなかった。
二人の関係を知ったルネの父は、二人の交際を認めようとしないどころか、クライドを首にしてしまったのです。そしてその夜、ルネの部屋の窓の外に現れたクライドは
「3年、3年たったら迎えに来るよ」
と言って、ハンブルグのおじさんの会社に勤める決意をルネにするのだった。ルネとしては、駆け落ちも辞さない覚悟だったのだけれど、クライドにいさめられて家に残り、クライドが迎えに来るのを待つことにしたのだった。そして月日は流れいった。
ある日、クライドのおばあさんが過労のために倒れ、ルネはクライドに一度戻るように手紙を出した。ところがその手紙は転居先不明で戻ってきたのだった。ルネは自分がハンブルグに行き、クライドの消息を確かめることを決意、ルネは髪を切り、男の子の格好をして父に内緒で家を後にした。
■あらすじ 《第1話:幽霊館に朝が来た》
ハンブルグに着いたルネは、以外と簡単にクライドの行き先を知ることができた。クライドはスイスに行ったのだという。ルネはクライドに直接あうことにしたが、スイスまでの旅費は持っていなかった。そこで、ヒッチハイクしながら行くことに。ところが最初に止まってくれた車は、本道をそれて山道に。男は同性愛者で、ルネを男の子と信じて、いたずらをしようとしたのだった。しかしルネが女の子だとわかると、山の中に捨てて去ってしまった。山中にひとりのこされたルネが歩き進んで行くと、そこには古い屋敷が・・・
ルネは、そこで小さな妖精アルファル と出会った。
■あらすじ 《第2話:アルプスが見ていた》
ひょんなことから一緒に旅することになったアルファル。アルファルは繊細できれい好き。そして端麗な顔立ちは、誰が見ても女性だったが、実はれっきとした男の妖精だった。彼のおかげで、旅するための費用には問題がなくなったルネだが、肝心のクライドを見つけることは簡単にはいきそうになかった。
ハンブルグで聞いたスイスのホテルに来たものの、クライドは泥棒のぬれぎぬを着せられて首になってしまっていたのだった。クライドを信じるルネは、クライドのぬれぎぬを晴らそうとアルフィルと事件を調べ始めた・・・
■あらすじ 《第3話:パリより愛を込めて》
モンマルトル。裏通りの安下宿にルネの姿があった。人口1千万人のこの街で、ひとりの人間を見つけるのはたやすいことではなかった。それはルネも承知していた。だから、宿屋ではなく下宿なのだ。しかし、手がかりすらつかめそうになかった。
そんなルネとアルフィルを壁の穴から覗く目があった。ルネの部屋の隣の住人だ。彼は楽して儲けることが大好きな小悪党だった。彼はさっそくアルフィルを手に入れるために画策しだしたのだった・・・
■あらすじ 《第4話:迷い星の夢》
アルフィルの友達のネズミの活躍で、クライドの居所をつかんだルネは早速その宿屋に向かった。しかし、クライドはひと足早く出かけてしまっていた。彼の行く先はマルセイユ。外人部隊に入ろうとしているのだ。軍隊に入ってしまったら、ルネにはどうにもならないだろう。ルネはマルセイユ行きの列車が発着するリヨン駅に向かった。
広いリヨン駅だが、マルセイユ行きの列車は1つ。クライドが宿屋を出たのは15分前。きっと見つけることができるだろうと思ったルネだったが、アルフィルの入ったバスケットを盗まれてしまった・・・
■あらすじ 《エピローグ》
マルセイユに着いたルネ。しかしクライドの手がかりは全く無い。とりあえずアルジェに向かう船を探すことにした。
「アルジェに向かう船なら、今日は1便だけ」
そう応えた男の指先には、今まさに桟橋を離れようとする船の姿があった。
まさか、クライドが・・・そう思ったルネの目に、まさしく船上から桟橋を眺めるクライドの姿が見えた。しかし、クライドはルネに全く気がつかない。その時アルフィルは人目を気にせずバスケットから飛び出して船に向かって飛んでいった・・・
■解説
昭和52年なかよし増刊号2月\x{301c}5月号に連載された作品です。連載時、毎回カラーページではじまるという編集側の期待もうかがえる作品。実際、当時の少女まんがの中にあってじつに意欲的な作品でした。妖精そのものはそんなにめずらしくない少女まんがでしたが、男の妖精が少女と旅するというのは、なかなかインパクトがありました。
アルフィルは当時の少女まんがに登場する男の象徴的な特徴を持っています。端正な顔立ち、長い髪、細い腰、長い足。それは男というより男装した女性の姿でした。まるで宝塚歌劇団の世界です。ですからアルフィルが男として登場しても全くおかしくはなかったのですが、アルフィルは女っぽい男として登場します。そのため少女まんがのもうひとつのパターン「妖精=女」を否定することになり、この作品に別な面白さが加え奥行きを出しています。
民話や童話に男の妖精というのも確かにいます。しかし、それはホビットに代表されるように、蝶やトンボのような羽を持つフェアリーではありません。そういった意味でアルフィルは、珍しい存在といえます。こうした一般概念を崩すのは、まんが作品の手法的特徴で、そういった手法から考えると正攻法で作られた作品ということになります。この作品の発想がどこからきたかを別にすると、当時の少女まんがの特徴を持つ作品です。
しかしこの作品は少女まんがの枠を利用しつつも、作家が新しいものを描きたいという意欲をこんなにまで表すことができることを証明してくれました。つまり手法的に確立されたものを使って、新しいものを作り出しているのです。こうした方法は、読み手に負担をかけません。読み手は普段なじんだ読み方で、新しい発想に触れることができるので、本質の部分を楽しむことができるのです。それはエンターテイメント作品として正しいやり方であるといえます。
さて、この作品は楽しいコメディタッチの作品です。話の内容はお涙ちょうだいものなんですが、れっきとしたコメディです。クライドとルネが絡まず、アルフィルは男扱いされずに物語が進むので、ラブコメにはなりません。曽祢まさこ氏は当初こうした作品が多かったように思うのですが、最近ではホラーMに作品が掲載されるように、ホラー作品が目に付きます。もっとも同人誌ではデビュー当時の面影がそのまま残っていることから、ご本人が本当に描きたいのは、こうしたコメディタッチの作品なのだと思います。
■妖精旅行
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