単行本「LuckyGray」より
馬波平 作品
公開日:2000.12.22
更新日:2004.09.17
■あらすじ
「マナセ、アブナイ、マナセ、アブナイ」
その声は電車から降りようとしていた女の子の帽子から聞こえた。愛瀬(まなせ)のかぶる奇妙な帽子は、しょっちゅう頭にケガをする孫娘のために、発明家のおじいちゃんがプレゼントしてくれたものだった。その帽子に障害物が近づくと、声を出して警告するという代物だった。帽子に警告をされた愛瀬は、背をかがめて電車の出口を抜けてホームに降りた。愛瀬は背が高かった。
家に帰ると陳平(ちんぺい)が遊びに来ていた。中学のころから付き合っている彼氏だ。さっそく陳平の体を求めてすりよる愛瀬。二人は愛し合った。
そんな二人だったが、たったひとつ気にしていることがあった。それは愛瀬の方が陳平よりも頭ひとつ背が高いことだった。
愛瀬のおじいちゃんは、そんな愛瀬の悩みを解決するべくまた新しいアイテムを発明した。それは体を小さくする腕輪だった。どういう効果があるかは言わずに、おじいちゃんは愛瀬に腕輪を着けさせた。それを着けて寝床についた愛瀬は、たった一晩で小さくなることができたが、手のひらサイズの大きさにまで小さくなってしまったのだった。
話を聞いてびっくりし、愛瀬のもとに駆けつけた陳平。陳平は、愛瀬のおじいちゃんにもとの体に戻すように怒りるが、すぐに戻す方法はないらしい。おじいちゃんは、体を大きくする腕輪の開発に手を付けることを陳平と愛瀬に約束した。少し落ち着きを取り戻した陳平は、愛瀬に余計なことを考えさせないために、その小さな体を愛撫しはじめたのだった。
やがて、おじいちゃんは体を大きくする腕輪を完成させたが、もとの大きさより小さめに設定できることを知った愛瀬は悩むのだった・・・
■解説
基本的にはアダルト路線なので、陳平より背の高い愛瀬のエッチシーンや、愛瀬が小さくなってからのエッチシーンが作品の半分以上になります。しかし、ストーリーそのものはいわゆるラブコメ路線で、全体を通して背の低い男と背の高い女の悩みがつづられています。
愛瀬は非常に女の子らしい夢を持って登場しますが、それは彼女の背の高さによってなかなか実現しません。そんな愛瀬の思いを察してあげる陳平ですが、彼は背が低いのでそれを実現してあげることができません。そうした二人が夢と現実とのギャップに対して、おじいちゃんの発明によって起きる騒動の中で答えを見つけます。ここで二人が見つけた答えの内容を紹介するのは簡単なのですが、作品の流れに沿って出てくる答えなので、やはり作品を読んで納得して欲しいと思いますので、ここで紹介するのは避けておきましょう。でも、その答えはご想像の通りの答えだと思います。
こうした女性が背が高いことで悩む作品は、じつに数限りなくあり、とても紹介しきれるものではありません。そして、そのほとんどの作品が同じ回答を出していることにも驚きます。身体的なコンプレックスというのは、その本人にしか判らない苦痛であり、それゆえ他人の手によって開放されることのない迷路のように感じるものです。そうした迷路の出口として、恋人との出会いがあるのが、これらの作品における共通の特徴になっています。
SFらしく身長を変えることができるとしても、それを答えにしないのは、物語として面白くないという理由もあることは確かです。しかし、それを答えせず、しかも同じ答えにたどり着く作品の多さには、多くの人が持つあこがれや希望が含まれているからでしょう。それだけ困難なことと思う作家が多いのだと思います。
ラブコメの根底には「白馬の王子様を待つ少女」があるのですが、そうした夢と真実の王子のギャップは実際多くの女性が感じているところでしょう。結婚した女性のほとんどが、理想の王子と新郎とのギャップを語ることが多いという事実がそれを裏付けています。マンガの場合、そうしたギャップを絵で出したくなります。それは多くの場合、身体的コンプレックスの強調という形で現れます。こうしたコンプレックスを抱える本人にはむごいとも思えるこうした物語は、多くの場合、ハッピーエンドで救いのある物語として作られます。子供のころ夢を与えてくれた「白馬の王子様」を優しく打ち壊してくれるのが、こうした作品なのです。そして、こうした作品に触れていくうちに「現実の理想の男性像」が作られていくのだと思います。加齢とともに趣向が変わるのは、こうした作品のパワーなのでしょう。
こうしてみるとこの作品は、アダルト路線で無くとも十分に面白い内容を持っているのですが、アダルト路線で作ったのは、やはりマンガは売れてナンボの世界だからなんでしょうか。
さてカラーイラスト1点のおまけの他に、背の高さについて作品なりの答えとは別にオチがあります。まあこれも、ご想像の通りだとは思いますが・・・
■Lucky Gray
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