原題:Fantastic Voyage
公開日:2002.12.05
更新日:2005.12.29
■あらすじ
アメリカ政府関係の重要人物が他国の諜報機関のテロにあい重症を負ってしまった。外科手術を施す必要に迫られたが、その手術は非常に困難であり、事実上不可能であった。
しかしその手術を可能にする技術が存在したのだ。
その技術は軍事技術で最高機密に属するものだった。その技術とは物体を縮小する技術だった。そして医師団は患者を救うため、手術に必要な機材を積み込んだ潜水艇とともにミクロサイズに縮小され、患者の体内に送り込まれることになったのだった。しかしそこに手術を失敗させようとする陰謀が待ち受けていたのだった・・・
■解説
人間の体内のシーンが美しいのが印象に残る作品。それまで設定の奇抜さや、アイディアの逃げ場として求められた感のあるSF映画でしたが、そうしたイメージを払拭してくれたのがこの映画だと言っても良いかもしれません。確かに奇抜なアイディアを持ち込んでいるこの映画ですが、その奇抜さだけをよりどころとせず、映画作品として緻密に作り上げられています。エンターテイメントとしての映画を心得たスタッフならではのハリウッドらしい映画です。
母体が象徴する安堵の場所である人間の体内。そこを危険な場所として取り扱っているのが面白い。未知の世界として、まるで宇宙船のような乗り物で乗り込んでいくそこは、宇宙空間と何ら変わらない。一般的にあるSF=宇宙という図式を逆手にとったのが、上映当時目新しいものでした。
CGが、多くの映画であたりまえの技術として使われる昨今。SFも実に多く制作され、その内容も様々な展開を見せてくれています。それでも体内を探検するものは少なく、この映画の影響は他の作品にも大きく影響を与えています。その先人的な影響力、それから演出の手法や小道具の古さも手伝い、ミクロの決死圏は古典映画の仲間入りを果した感じがします。
■驚異の縮小プロセス
縮小プロセスは、この作品の見せ場の一つ。非常に良く考えられた緻密な行程です。その様はロケットの打ち上げに匹敵するものです。無論、ロケットの打ち上げを意識しているのはまちがいありません。ここで簡単に紹介しておきましょう。
見せ場を紹介するとは何事だ!と怒られるかもしれませんが、実際にご覧いただければ判るとは思いますが、そのシーンは美しく何度見ても飽きることはないので予習をしておくのが良いかと思います。
搭乗員を潜水艇に乗せ、そのまま縮小。巨大な実験室のような部屋の中央に潜水艇。その上から縮小光線がシャワーのように注ぎだすと、縮小が始まる。
潜水艇が数センチの大きさに縮小したところが、第一段階。次は潜水艇を注射器に入れてから、注射器ごと縮小する。そのための作業が左の写真。テーブルの上にある潜水艇をマニュピレータで持ち上げるところ。右奥に見える人がマニュピレータのオペレータ。左側の人の指示でマニュピレータを操作する。潜水艇から見える窓の外の景色は、巨人となった作業員の顔で覆われる。
縮小前の巨大な注射器。注射器中央にかすかに見える白い点が潜水艇。この状態でさらに縮小される。
注射器も縮小され、普通の注射器の大きさになった。その注射器の先端に注射針をセットしているところ。この状態では潜水艇の窓からは、注射器の外はよく見えない。潜水艇はすでにミクロサイズ。外部はあまりに巨大すぎる別世界となってしまった。
マニュピレータで所定の位置に注射器をセット。けい動脈に潜水艇を注入する。患者の頭部を覆うように、小さなレーダーが配置され、手術室は緊張に包まれる。その後、司令部からのゴーサインにて、潜水艇は患者の体内に注入された。
■映画にまつわる話
日本において、この映画の人間体内の美術デザインを担当したのは、シュールレアリズム(超現実主義)の巨匠サルバドール・ダリだと言われています。しかし、海外ではそのような話を耳にしたことがありません。確かに一般に知られているダリのイメージに合います。ですので、この映画に関与していたとしても不思議では無い感じを受けます。しかし実際には、このころのダリの作風とは相いれないのです。本当にダリがデザインをしたのでしょうか。そこで DaliMuseum の学芸員の方に調査していただいたところ、ダリはこの映画作品に全く関与していないことが判りました。ダリの作品に同名の「Fantastic Voyage (1965)」があり、これと混同した噂がまことしやかに語られ、その結果映画評論のほとんどでそのように解説されてしまったようです。なおダリの同名作品は、この映画とは全く別の内容のものであることを付け加えておきます。
この映画が日本で公開されたとき、虫プロダクション制作のTVアニメ「鉄腕アトム」にインスパイアされて制作されたという噂がありました。たしかに「細菌部隊(第88話1964年9月放送)」のエピソードに似ています。またこの細菌部隊というエピソードは、1948年に手塚治虫氏が「吸血魔団」として発表したマンガ作品が大元で、これを手塚氏自身が1958年に「38度線上の怪物」としてリメイク。そして1964年にアニメ版の鉄腕アトムのエピソードとして復活した経緯がある話です。鉄腕アトムは、AstroBoyとしてミクロの決死圏製作直前に放映されていますので、手塚氏の作品が下敷きになった可能性は否定できません。しかしこれは、真偽のほどを確かめることが出来ませんでした。
さてこの映画には、もうひとつエピソードがあります。脚本を基にしたノベライズを担当したのはアイザック・アシモフ。サスペンス仕立てのSF作品をノベライズするには、これ以上ぴったりの作家はいないでしょう。しかしアシモフは、このノベライズを行なったものの、SFとしての出来栄えには大いに不満だったようです。その不満を解消するには、小説を書き直すほかはない。しかし映画のノベライズ版を書き直す訳にもいかない。ということで、ミクロの決死圏2を新たに書き下ろしています。
■ミクロの決死圏
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