ビッグX

手塚治虫 作品

あらすじ 《第1巻》

1942年12月。ドイツの一方的勝利が続く第2次世界大戦に物語は始まる。

朝雲博士はドイツのために「ビッグX」という薬の研究を行っていた。しかし、研究の成果をドイツ軍には渡さないことを決心していた。そしてドイツの敗戦色が濃くなったある日、博士は自分の息子を盲腸炎と偽り手術を行った。博士が手術を終わり手術室から出たとき博士を待っていたのは博士の死だった。破棄された書類とともに、ビッグXは謎のままこの世から姿を消した。

それから20年の歳月が流れた。

朝雲しげるは、突然腹痛に襲われた。レントゲン撮影の結果、しげるの腹の中に金属片があることが判明。金属片を取りだすための緊急手術が行われた。そんなとき、病院へ直接しげるの妻宛に一本の電話があった。

「マダム・・・いや47号」

その声にはっとする妻。なんと、しげるの妻は、しげるを監視するために送り込まれたナチス同盟のスパイであったのだ。47号は偽装結婚までしてしげるを監視していたが、47号は長い年月の間にしげるに愛情を持つようになり、昭という子供までもうけていたのだった。

ナチス同盟は47号の報告を受け、病院を襲い金属片を手に入れた。金属片にはビッグXの研究成果が記されていたのだ。それは20年前、しげるの父がドイツで偽りの手術を行い埋め込んだものだった。ナチス同盟は、母である47号を追って忍び込んできた昭をモルモット替わりにしてビッグXを注射した。すると昭の体がみるみる膨れ上がり巨人となってしまった...

あらすじ 《第2巻》

ナチス同盟の組織を探っていた昭は、不思議な能力を持つニーナという少女をナチス同盟から助け出した。ナチス同盟から逃避行を続ける昭とニーナは、とある村にたどり着いた。その村はナチス同盟に支配されており、革命を企てたものの失敗。村長らはナチス同盟に捕らわれてしまった。昭は村長ら村民を救い出すため、再びナチス同盟の本拠地に乗り込んだ。

しかしそれはナチス同盟を率いるハンスの謀略だった。巨人ビッグXをおびきだし、超電磁分解装置でビッグXを亡き者にしようとしていたのだ。

昭はビッグXを目盛り2だけ注射した。ビッグXを5段階に注射できるように注射器はできていた。そして目盛り2だと、巨人にはならず、鋼鉄のように頑丈な体になるのだった。そしてナチス同盟の本部に乗り込んだ。しかしあまりにも簡単にことが運びすぎた。

「これはワナなんだ」

昭は気がついた。ハンスは、昭が罠に気がついたのを見て強行手段にでた。クレーンを使って昭を捕えようとしたのだ。昭は目盛り5までビッグXを注射した。ビルごと村長を救いだそうと巨人になった…

あらすじ 《第3巻》

シルバー議員は大統領選挙に立候補していた。その大統領候補はニューヨークの美術館で、怪しげな覆面の男と会談していた。

「クロス党が立ち上がるときがきたのだ。」

覆面の男はクロス党の党首だ。クロス党は世界戦争を起こし人類が滅びた後、クロス党員だけの世界を作ろうともくろんでいた。

昭は父の研究所にいた。これまでの戦いですっかりビッグXを使い果たした昭は、この研究所でビッグXの生成を行おうとしていた。クロス党はこの薬を狙って昭の行動を見張っていたが、本部からの命令で12時の作戦決行までにビッグXを手に入れろといってきた。

昭は突然押し込んできたクロス党員達になにもできなかった。ニーナを人質にとられてしまっていたからだ。ビッグXの生成に協力する昭。そしてビッグXは完成した。しかし、試しに金魚に注射したが効果はなかった。昭は薬の秘密を話すからといいくるめ薬を手にした。昭はやがて水に数滴のビッグXをたらし、そして素早く飲み干した。すると昭の体がみるみる膨れ上がり巨人となった…

あらすじ 《第4巻》

50年以来の大寒波の中、ブルブ博士は寒さを感じていなかった。心待ちにしていた人を迎えに空港まで来ていたからだ。やがて飛行機が着陸しタラップが横付けされ、男と女の2人が降りてきた。昭とニーナだった。二人は飢饉を救うためにこの国に来たのだった。

小さく堅いジャガイモ。昭は、そのジャガイモにビッグXを注射した。食物を大きくして飢饉を救おうというのだ。しかし、この様子をみていた者がビッグXを盗みだそうと考え、昭の宿泊するホテルの部屋に忍び込んだ。

「そうは、させないわ!」

薬を盗みだしホテルを出ようとしたとき、男の頭の中で声が響いた。ニーナだ。

ニーナには特殊な能力があった。テレパシィ能力を使い男を足止めしたが、男は驚いた拍子にビッグXを雪の中に落としてしまった。そしてビッグXは地中に流れ出していった…

解説

「ビッグX」をご存じ無い方もいらっしゃると思います。それだけ古い作品であり、この作品があったからこそ新しく生まれたアイディアもあったであろう影響力の大きな作品です。

戦後の日本に新しい文化として「まんが」を認めさせた第一人者である手塚治虫氏。手塚氏を知らない方はいらっしゃらないと思います。そのまんが文化の中の黎明期にビッグXは描かれました。

ビッグX執筆当時の手塚氏は、少年少女向けの雑誌に精力的に掲載していました。その作品の特徴は、読者を子供扱いせず、読者を読者として真っ向から自分のエネルギーを注いでいたことにあります。ですから、どの作品を見ても構成がしっかりとしており、アイディアに溢れ、社会性にもすぐれたエンターテイメントな作品に仕上がっています。

さて戦後の傷跡が消えたころに描かれた作品とはいえ、戦争の暗い影があちらこちらに落ちています。手塚氏の多く作品のはテーマを心や命に求めたものが多いのですが、ビッグXにはそれらに加えて戦争の影があります。この作品の最初と最後の方を読み比べると、手塚氏の戦争に関する価値観に微妙な変化があることに気がつきます。また、正義と悪の区別が話が進むにつれてはっきりしなくなっていきます。

あらゆる作品は何らかの影響を読者に与えます。この作品は人気のあったシリーズですので多くの方が何らかの影響を受けたろうと思います。が、もしかするとこの作品の一番影響を受けたのは、手塚氏自身だったのかもしれません。

なお、ビッグXには続編とも言えるミクロXという作品がありますが、これは別の作品として改めて紹介することにいたします。

関連作品

薬で体が大きくなる話で、明らかにビッグXを意識した構成になっている作品のリストです。

Published : 2000.02.02
Update : 2004.09.17

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