スーパーフライ

押見修造

物語

小さな体で同級生の寝室に忍び込む 小さな体で同級生の服の中

人は死ぬとハエになって鼻から出てくる。子供の頃にどこかで聞いた話だったが、1ヶ月前から寝ているとき、小さくなって自分の鼻から出られるようになった。姿はそのままだったが、ハエのように飛び回れるのだ。そしてオレは、毎晩ここに来ている。

吉岡由美子さんは同級生だ。男子生徒の憧れの的だ。

毎晩、小さくなって由美子さんの体に降り立つ。巨大な体。柔らかい地面。顔の方を見ると、拡大されてさらに綺麗さを増したように思える。

その巨大な女神のような由美子さんの服の中に潜り込み、毎晩悪戯をするのだ。悪戯と言っても悪ふざけをする訳ではない、由美子さんに気がつかれないように、その巨大な体を犯すのだ。

服の中は暗く、女の臭いで満たされている。その中を這い進むと、巨大な乳首が現れる。その乳首を手で抱え、揉みながら舐め回す。

潜り込むのは胸だけではない。最終目的地は、美しい太腿の合流地点だ。

一旦服の外に出て、今度は太腿と服の隙間から潜り込む。暗い服の中を進むと、体にぴったりとくっついた巨大な布地で覆われたところに出る。この布地の中心まで進むと、女の臭いで満たされた空間に出る。そこでオレは自分の物を本能のままに扱うのだ。そして…

オレは昼の学校生活に集中できなくなっていた。夜が待ち遠しくてしょうがない。夜になれば、あの秘密のひとときが過ごせるのだ。

そんなある日、下校しようとするオレを吉岡由美子さんが追いかけてきたのだ。吉岡さんを目の前にして焦っているオレに、なんと告白してきたのだ。もちろん断る理由もない。

吉岡さんとオレの関係は、スムーズに進んで行った。吉岡さんの意外なまでの積極的な行動に流され、思った以上に早くその日はやってきた。

両親が出かけていない吉岡さんの家。二人きり。しかしオレは冷めていた。

吉岡さんと付き合うようになっても、オレは小さくなって巨大な服に潜り込み、由美子さんを犯していた。その興奮が、実物大の吉岡さんに感じないのだ。何故だか分からないまま、吉岡さんの家を後にした。

そして今日も小さくなって由美子さんの上にいる。巨大な顔。巨大な唇。そしてオレが目にしたのは・・・

小さな体で同級生の唇の上に立つ

解説

物語の説明(あらすじ)は脚色していますが、作品性を損ねたとは思いません。もしも、あらすじを読んでドキドキしたなら、この作品と向き合って読む価値があるはずです。

多感な思春期に学校という場所を生活の中心に過ごす主人公。家庭と学校という2つの世界を行き来するだけの平凡な毎日。ところがある日、全く違う世界が中心になってしまいます。非現実的な世界ですが現実と直結した世界。それは一見すると突拍子も無いストーリーです。SFと言っても良いかもしれません。が、実は心象表現と片付けられないがための仕掛けとして構成されたために、SF的に仕上がった青春ラブストーリーなのです。

主人公は小さくなって飛び回れる能力を身につけますが、そのために心象風景としての描写が現実の世界として描かれ、その上に心理的な描写が加えられています。実は普通のラブストーリーなのですが、二重に心理描写がされているがために緻密な内容になっています。と同時に、表面的なラブストーリーとして読まれることを回避しています。非常に良く計算されたストーリーだと言えます。

こうした手法によって描かれた作品ですので、あらすじを書くにあたり、表面的にトレースするのではなく主人公の心理について触れたくなりました。非常に濃密に描かれた主人公の心理が、作品中にあることを知ってもらいたかったからです。

主人公は、等身大の彼女を受け入れられないでいます。巨大な彼女と等身大の彼女と両方を知っているのですが、巨大な彼女の元に毎晩夜這いをかけていることを彼女に伝えることはできません。しかし等身大の彼女との仲が深まるにつれ、そうしたことを隠し通せない状況が生まれてきます。普通に考えるなら現実として存在するのは等身大の彼女ですが、彼にとって巨大な彼女も現実の存在であり、その上その魅力から逃れられないのです。

巨大な彼女の存在は、まるで大地のような存在でありながら、女性そのものなのです。完璧な肉体に埋め尽くされ覆われた世界での自慰行為。それは一方的な性欲であり、崇拝の方法でもあり、背徳感を負ったスリリングな体験でもあるのです。秘密の儀式は、病み付きになってしまったアトラクションのようでもあるのです。

一方等身大の彼女は、非常に積極的で能動的に主人公に関わってきます。主人公もそうした彼女に戸惑いつつも、その押しの強さに心地よさを感じています。しかし等身大の彼女との性行為に興奮を覚えられないでいます。

どちらの現実も、失いたく無い主人公。非常に優柔不断な主人公です。そんな主人公ですが、巨大な彼女か等身大の彼女のどちらかを選ぶ時が来たことを感じます。主人公は、それまで切り離していた他人との関わりを真剣に考えなくてはならなくなるのです。主人公が何を考え、何を決心したのかは、読めば分かります。是非、手に取って読んでもらいたいと思います。

小さな体の自分との比較

Published : 2013.08.12
Update : 2013.08.28

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