青春の尻尾

小池一夫:作
平野仁:画

第1巻 仙人志願

青年は探し求めていた。それは金桜子(じんいんず)の花、しかも普通の金桜子ではなく、刺の無い金桜子だ。彼はそれを探し求めて、もう6年にもなっていた。

なぜ、青年は金桜子を探していたか。それは、その花畠には年に一度だけ仙人が降りてくるという伝説があったからでした。

青年は探求心が強く、そして仙人になるために6年もの間、伝説を信じて花畠を探していました。そしてとうとう目の前に仙人が現れたのです。青年はすかさず仙人に、自分を弟子にするように頼みました。

いくつかの質問を仙人から受けましたが、青年はあっさりと答えてのけました。すると、仙人は「尻尾がある」と感心した上で、仙人にあるための試練を与えられました。

そして試練の前に、青年は仙人より「諸葛亮孔明」という名をもらいました。場所は中国、時は後漢の末、孔明の青春は始まったばかりでした。

第2巻 鬼娘たち

仙人に志願しながらも、最後には人間として生きることを決意した孔明。しかし試練の中で手に入れたものがありました。不思議な予知能力と、鬼界の支配者の地位。しかし孔明には、それがどのような意味を持つものなのか、まだ理解していませんでした。

飢え疲れ、孔明は荒野をさまよっていました。やがて川を見つけた孔明は、その水を得て生き返る思いとともに何日ぶりかの安息に人心地つくことができました。

川で洗濯をしているとき、誤って褌を流してしまった時、目の前に長身の美女が現れたのです。その美女は鬼娘で、その娘の膣に精を流し込めば命令に従うというのです。しかし、それを断わると殺すというのです。孔明はその娘を精いっぱい愛しました。

娘の名は碧姜(へききょう)、西王母の十番目の娘で水を司る力を持ち、身の丈も自由にできる能力を持っていました。

孔明は突如現れた碧姜になにか命じなくてはなりませんでした。そこでひとつの質問を碧姜にしましたが、これの答えは碧姜には判りませんでした。そこで、碧姜は自分の妹である炎娘子(えんじょうし)を呼び出し答えさせたのです。

鬼娘を呼びだすことが出来るようになった孔明は、さらにあての無い旅を続けていきました。

第3巻 風よ友よ

曹操と呂布の戦闘に巻き込まれた孔明は曹操に追われるはめに陥りましたが、かろうじて逃げ延びることが出来きたのです。逃げることが出来たのは、西王母の次女である土癸(どき)の助けがあったからでした。土癸は大地を司る力を持ち、その姿は大地のように浅黒く、そして碧姜と同様に自由に身の丈を変えることが出来ました。

戦場には敗戦の将である呂布が、瀕死の状態で倒れていました。その様があまりにも哀れだったので、孔明は土癸の知恵を借りて呂布を助けました。呂布は孔明に助けられ、都へ戻る際に友人として招きました。

都で帝に次ぐ地位にあり実権者である董丞相に謁見する際に、呂布は孔明を同伴させました。

孔明の董丞相に対する印象は、良いものではありませんでした。あまりの董丞相の態度に怒りをあらわにした孔明は、董丞相に対し諌言したのです。ところがその言葉に反応した董丞相は、その姿をみるみる変化させたのです。

辛くも危ないところを救ったのは、巨大な足でした。上を見上げるとそこには西王母のお顔が見えました。取り憑かれていた魔物を退治され、董丞相は元に戻ることが出来ましたが、そこに伝令がやってきました。また、戦が始まろうとしているのでした。

戦をやめさせたい孔明は土癸の知恵を借り、西王母の長女である飛恋女(ひれんじょ)を呼び出すことにしました。やがて、木の葉に乗って現れた飛恋女は、孔明の頭の上に下り立ちました。飛恋女は、とても小さな女性だったのです。

第4巻 巡り愛

都を後にした孔明は、人里はなれた一軒家に宿を借りました。その家には娘が一人で住んでいました。名は無残(むざん)。その変った名前と、両頬に刻まれた薔薇の入れ墨に興味を持った孔明は、その理由を知りたいと思ったのです。

しかし無残は何も語ろうとしないどころか、孔明を軽くあしらったのです。孔明は軽く見られたことに腹立ちを覚え、自分の虚栄心も手伝って鬼娘4人を呼び出しました。鬼娘は皆怒りをあらわにしていました。なぜなら、孔明の虚栄心のために呼び出されたからです。しかも碧姜は孔明の子供を身ごもり、身重の状態で召喚されたのです。

ともあれ公明に対し無残はその名の由来について話始めました。すべてを聞いた孔明は、問題を解決するために蝸斗(かと)という名の火の様な犬を探しだす必要があると考えました。

蝸斗はあっさりと見つかりました。その犬は炎娘子のペットだったのです。しかし、蝸斗は危険な子犬でした。感情を押さえることが出来なくなると、炎となり巨大化するというのです。でも孔明の命令ですから、炎娘子は蝸斗を連れてきました。

しかしそれは予想もしない大変なことにつながってしまいました。

第5巻 孔明正大

孔明の旅は続き、不思議な雲を引き連れた男にあった。

その男の名は趙雲と言った。取りついている雲は、これまでに戦場で殺した者たちのおん念だという。孔明は一計を案じ、雲をちらすが、ちぎれた雲は時とともに元通りになった。趙雲は雲がちぎれる様を見て、哀れに思い雲とともに生活する覚悟を決めた。そのとき、雲はその決意に心を落ち着かせ、そして消えていった。

そうした旅にあって、孔明は鬼娘たちのおかげで不自由さは全くありませんでした。ひとりで旅をしているようであっても、実際には鬼娘たちと一緒にいるのも同然でした。孔明はその中で、快楽に溺れてしまうのではないだろうかという恐れから、鬼娘たちに対する威厳を保ちたいと考えるようになりました。

そこで、鬼娘を一同に召喚し、鬼娘たちと話し合いを始めた。

第6巻 三眉鬼の女

時代は大きな流れの中にあった。多くの人間がその流れの中で傷つき死んでいた。

孔明はそうした世を、離れたところで見、また係っていた。予知能力に導かれて旅を続けていた。自分の役割を見つけるために。

予知能力が導いた先では、逃げ惑う婦女子らをも皆殺しにする3人の娘がいた。3人は術を使い、呪符を軍隊として動かし、そして漢民族に復讐するためにだけ生きていた。娘らの決心は固く、人間としての生を捨て、さらには女としての性を捨ててまで復讐に燃える鬼となっていた。

この殺戮を止めるべく鬼娘を召喚した孔明。それに応えて巨大化して軍隊をけ散らす鬼娘たちだったが、3人娘らが村人を人質にとられ、手出しが出来なくなってしまった。そして3人娘らは、孔明に呪符を飲むように要求してきたのだったその呪符は孔明が鬼娘を召喚することができなくなるというものだった。

解説

碧姜は巨大化した後に孔明をつまみ上げ、胸元に放り込むと天界に昇っていった。

この物語の中で、碧姜が孔明を西王母に会わせに行く(第2巻)くだりがありますが、天地を喰らう(第1巻)を読んだときにこのシーンを思い出しました。偶然なのかもしれませんが、巨大な竜にしがみついて天界に昇くさまは、まさしく巨大化した碧姜の胸にしがみついて天界に行くシーンに似ています。さらに両作品とも題材が三国志にあり、孔明という符合もあって、非常に似た設定だと思いました。

こういった巨大女性にしがみつく男という姿は、男という存在の性の側面を見事に突いているのではないかと最近思うようになりました。抽象的な行動としての性を考えたとき、女性は包み込むもの、そして男性は突き進むものと単純に考えたとき、巨大女性という存在が生まれてくるのではないかと思えるのです。

同じような象徴としての巨大女性が小池氏の原作において、しばしば登場します。小池氏の物語では、流れにおいても女性が大地のような存在として描かれているものが目に付きます。そこには、包み込むような優しい女性であったり、何事にも動じない女性であったり、何者にも負けない強さを秘めた女性であったりします。一見かよわい存在のように見える女性でも、芯の部分で強い存在として描かれることが多いようです。

この作品は永井豪氏との共著「花平バーズカ」からの流れを汲む作品群の1つの作品です。この作品群を読むと、小池氏の哲学が良く判ります。すでにこのテーマは小池氏のライフワークだと言えますので、今後も新しいシチュエーションで作品が生み出されてくるに違いありません。

主な登場人物

諸葛亮孔明

物語の主人公。三国志はあまりにも有名なので解説の必要はないと思います。三国志に登場する以前の孔明について独自の孔明を描いてあります。

ここに登場する孔明は、探求心が強く頭脳明晰であるばかりでなく優しさに溢れた好青年という他の作品に見られる部分を持ち合わせながら、虚栄心もあり自己保身も強く幼さが残ったところのある人間的な部分が強く出た独特なキャラクターに仕立てられてます。

碧姜

準主役で、孔明の最愛の妻という役柄。その能力は水を司るだけでなく、巨大化できることだ。

どうも設定としては鬼娘たちの母である西王母や父である大上老君が巨人として登場するので、おそらくは巨人の状態が普通で、小さくなって孔明に会いに来ているのではないかと思われます。天界の神々が巨大な体躯を持つのは、よくある話なので、この作品でもそういった設定を取り入れたのでしょう。

炎娘子

鬼娘の中で一番若い?のが炎娘子。鬼娘は天界の住人なので不老不死ということになっているので、おそらくは千歳を軽く通り越しているであろう。

この炎娘子は、作者が気に入っている節がある。というのは、ストーリー展開上あまし重要ではない存在であるにもかかわらず、ちょくちょく出番がある。巨大化シーンも一番力が入っているし、イラストでも一人で登場する。

土癸

土を司る象徴だろうか。黒っぽい体色をしている。特に巨大化しなくとも3m近い身長で登場する。その体色の為に、巨大化したときには素晴らしい迫力がある。

飛恋女

風を司る飛恋女は、西王母に鬼籍から抜かれてしまっている。そのためだろうか、唯一巨大化しない鬼娘として登場する。

非常に小さな体躯で登場する飛恋女。もちろん彼女に命令するには、彼女と寝る必要があるのだ。孔明は、最初どうやっていいいやら悩むが、風には大きさが無いということに気がついて遠慮なくする。

西王母

常に巨大である。孔明はもちろん西王母と肉体的な関係にはならない。そのため、お願いすることはできても、命令はできない。

大上老君

見てくれは良くないが全知全能の神。この作品中では、ギリシャ神話のゼウスと同じようなキャラクターとして登場。

関連作品

小池一夫氏の作品には、ライフワークとも思える作品群があります。すべての作品について調べきれてはおりませんが、巨人に関連している作品は、判明しているだけで次のものがあります。

  • 花平バズーカ
  • 魔物語
  • 青春の尻尾
  • 弐十手物語

上記作品は、将来すべて紹介したいと思っています。

Published : 2000.02.06
Update : 2004.09.17

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