この巻から[登場人物]図が登場する。四姉妹のほかには、真ん中に多田裕也＝すずの同級生。オクトパスの主将だが現在は入院中。右上から浜田＝千佳が働く店の店長。アフロがトレードマーク。尾崎風太＝オクトパスに所属するすずの同級生。主将代理を務める。左上から、藤井朋章＝佳乃の元カレ。高校生だが大学生と偽っていた。緒方将志＝オクトパスに所属する同級生。たまに関西弁でしゃべる。
「花底蛇」では、すずが“つらいことを”抱えていると見抜いた藤井朋章に肉薄する。もちろんアタックなどではなく―このマンガは恋愛もタップリ描かれるが、それ以外の人間観察も深い―、自分と通底するものを感じたための人間的興味からだ。朋章は花やかな―マスク良し男っぷりも良し―底に蛇をひめていたという噺。そして、朋章もすずが同じ“つらさ”を抱えもっていることを見抜いていた。いわば、佳乃はつき合っていた彼の底までは見通せなかったわけだ（このことを佳乃は知らない）。
「桜の花の満開の下」では、一方、すずは同級生の仲良しトリオ―裕也、風太、将志の関係が裕也の義足によってギクシャクする中で自分の位置をはかりかねていた。しかし、ここでも、すずは自らが苛酷な過去に学んだことによって、裕也の気持と通底していることに気づく。それを彼女は「かんたんに人のことかわいそうっていう人すっご ムカつく！」と言って裕也の共感を得る（取り残された風太はそれを“恋愛”と勘違いする、残念！）。
「真昼の月」もすずの洞察が光るが、ここでは、ようやく“鎌倉”がフィーチャーされる。すずが山形から鎌倉へ来たワケが話されるのだが、それは鎌倉で初めて本当の家族と出会ったということ。“女子寮の一番下っぱ”という表現も絶妙だが、それだけではない。少なくとも幸にとっては、この“鎌倉”の家は自分たちの城となっていたのだ。それは、おばあちゃんの七回忌に産みの母がのこのこやって来て、心ない発言をしたことでハッキリする。幸と母親の罵りあいを聞いていたすずは、後から幸に、自分の母が「奥さんのいる人を好きにな」ったからだと涙を流すのだ。さらには、祖母の墓参りに付き添った幸は母親の「私とうとうお母さんの望む娘にはなれなかった」という声を聞く。この複数の視点を描き切っているところに、この作品の凄みを感じた。
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