タイトルが出オチなのでストーリーは一言「ある青年が巨大化、初期は面白がられたが結局は厄介ものになり」というまとめると陳腐だが(すいません)ぐいぐいと原色の絵の具で太い線で描かれた絵のようで、ためらいのない描き方で読ませてしまうのだ。
この作品が汐文社から発行された1976年から49年後、2025年に読むと、日本社会も青年マンガもなにもかも50年でかわってしまったことに愕然とする。
公害をまきちらしてそうな高いコンクリート煙突、満員電車の雑踏、主人公の寝ている部屋がまるで松本零士の「大四畳半」のような居汚さ…ところどころ作者はすべてを自分の世界観で統一できていないのか、群衆がまるで水木しげるのようなヌボーっとした歯を剥き出したような顔つきをしていたり、ビルの書き方がまだ「現代的」な風景と、戦後のごたごたした街並みと隣り合っていたり、また高層ビルも書き方が汚くすっきりしておらず、それは青年マンガを描くマンガ家も読む読者も読み捨てだったり、もっと直接的な欲望や世界観のまま、要するにマンガに求める水準も世界観も無意識と情動、不満と欲求といった簡単なもので、複雑な世界観を反映できるではまだない時代だったのか、というある種の異世界転生というか、隔絶した世界を見るショックがあった。
それがわずか50年前であることに衝撃で、かろうじて魁・男塾や北斗の拳のような世界にこの後継者を感じるぐらいで、高橋留美子・あだち充・宮崎駿以前のマンガ世界なのだろうとしんみりしながら読み終えた。今では神格化されている手塚治虫も、この1970年代の中では段違いだったとはいえ、彼ですらその内面世界を放縦に展開していたにすぎなく思えてくる。1980年代以後、日本はみるみる洗練されていったのだ。
しかし、こうしたノスタルジーだけでは50年前のマンガは持たない。
この作品は巨人になった青年を疎外する(そりゃ日本ではこうした異人を許容する余地はなさそう…まして昭和50年代では)社会のなかでの孤独、そして社会はそれを維持するために異分子を排除することで団結し、あるいしは生贄を踏みつけつつそれへの後ろめたさへの聖性で結束を固めることが問わず語りに記載されていて、これはこうした結末になるでしょうね、という感じだった。
いろいろと粗野で2020年代のマンガ界では前世のような内容だが、骨格はむりやり引き延ばされた今のスタイリッシュな作品のほとんどは、2070年代にはあらかた読む時間的コストにひきあわなくなり、忘れ去られるだろうことを考えると、普遍的な作品だと思った(でも正直かなり泥臭いですし、今後も読む人はかなりのもの好きと好事家と思われますが)

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巨人獣 コミック – 1998/4/1
石川 球人
(著)
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- 本の長さ479ページ
- 言語日本語
- 出版社太田出版
- 発売日1998/4/1
- ISBN-104872333888
- ISBN-13978-4872333886
登録情報
- 出版社 : 太田出版 (1998/4/1)
- 発売日 : 1998/4/1
- 言語 : 日本語
- コミック : 479ページ
- ISBN-10 : 4872333888
- ISBN-13 : 978-4872333886
- Amazon 売れ筋ランキング: - 323,983位コミック
- カスタマーレビュー:
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- 2025年4月7日に日本でレビュー済みフォーマット: Kindle版 (電子書籍)
- 2020年4月8日に日本でレビュー済みフォーマット: コミック (紙)昨今の体制に媚びたマスコミに慣れてると、作品中のマスコミが新鮮に思えてならない。女性の巨人を登場させたのがミソで、あれで巨人の悲哀がよけい醸し出された。日本は米国の属国で、襲ってくる巨人の処置など自国だけで決めることなどできない(駐留米軍が黙っていない)のだが、まあそこはフィクションだからいいとしよう。
新型コロナウイルスも国民がこの巨人獣のように怖れ慄いているが、こっちは最終的に共生するしかないわけで、巨人も共生できる道を選べればよかったのに。
- 2003年7月28日に日本でレビュー済みフォーマット: コミック (紙)これほど読後感の悪い作品はちょっと見たことがない。
そしておそらくそれが全てだろう。
「あー気分悪ィー」となりたい人向け。
ただ、30年以上も前の作品だと言うのに、
読者を引き込む技術には目を見張るべきものがある。
絵柄も台詞回しも古すぎるというのに、ついページをめくってしまう。
おかげで過去最悪の気分に陥ったわけだが。
- 2013年5月20日に日本でレビュー済みフォーマット: コミック (紙)自分的には未だに読み返せない、唯一と言っていい作品です。小学生の頃、立ち読みして、゛うわああ…゛と家に帰るとウ○○ラQの巨人の回をやっていたり…B・I・ゴードンのプルトニウム人間など曾ては個人が巨人化する恐怖を描いた物語をちょくちょく見かけたものでした。 作者の石川球太先生は時代が変遷しても 動物でも人間でも絶える事のない野性の刃(やいば)或いは愚かしい゛獣性゛を主題にしてこられた名手です。