原題:Melanie Meraculi
原作:Renate Welsh
公開日:2001.08.14
更新日:2004.09.17
■あらすじ
とある村はずれに、おばあさんと少女が二人で住んでいました。少女の名前はメラニー・ミラクーリ。メラニーの両親は、遠い国を回って植物の種を集めているため、おばあさんと二人で住んでいるのです。メラニーは想像力豊かな少女というだけでなく、魔法が使えました。もっともちゃんと習ったわけではなく、魔法使いであるおばあさんが魔法を使うのを見て覚えたので、思うように使えるということではありませんでした。
ある日おばあさんは、掃除の最中に魔法を失敗して大変なことになりました。物を遠く離れたところに飛ばしてしまう魔法だったのですが、まちがって自分を飛ばしてしまったのです。メラニーが外から帰ってきたときには、すでにおばあさんの姿は家にありません。事情を知らないメアリーは、突然おばあさんが居なくなったので心配しました。でも、メアリーに一体何が出来たというのでしょうか。メアリーは、村はずれの小さな家で、おばあさんか両親が帰ってくるのを待つしかありませんでした。
おばあさんが居なくなってしまった翌日、郵便屋のフランツさんがやって来ました。おばあさんの受け取る年金を届けに来たのです。年金がなければメアリーは家を守っていくことが出来ないのでしたが、年金を受けとるにはおばあさんのサインが必要でした。困ったメアリーは、混乱のあまりひとりごとのように呪文を唱えていたのです。するとどうでしょう、フランツさんの体がみるみるうちに小さくなってっしまったのです。そして、とうとう手のひらくらいの大きさになってキイキイと小さな声で叫んでいました。フランツさんが驚いたのは当然ですが、メラニーも同じくらいに驚いていました。しかしどうしても元に戻す呪文が思い出せません。おばあさんが戻るまで元に戻れないと観念したフランツさんは、メアリーの人形の家でおばあさんの帰りを待つことにしました。
絵:村田 収 |
翌日、こんどはおまわりさんがやってきました。郵便屋さんのフランツさんを探してこの家までやってきたのです。おまわりさんは家の納屋にあるフランツさんの自転車について、メアリーにしつこく質問をしました。困ったメアリーは混乱のあまり、またもひとりごとのように呪文を唱えてしまいました。おまわりさんの体がみるみるうちに小さくなっていきました。おまわりさんは怒って叱りつけましたが、メアリーにはキイキイという小さな声にしか聞こえませんでした。フランツさんは「仲間入りだね」といって、人形の家に住むようにおまわりさんに言いました。しかしおまわりさんは、メアリーの手に乗せられて人形の家に入ることを嫌がったのです。しかし結局は、人形の家のソファで、おまわりさんとフランツさんは今後どうするかを話しあうことになりました。
次の日、なんとメアリーの学校の先生がやってきました。メアリーの先生は、女の人でメアリーが最近学校の授業中に上の空になっていることについて、おばあさんと話しをしたいと思ってきたのです。メアリーが困っていると、先生が部屋の奥によくできた人形を見つけ手に取りました。先生が手にしているのは実は小さくなったフランツさんでした。フランツさんは人形のふりをしていました。次に先生は、おまわりさんを手に取りました。おまわりさんも最初は人形のふりをしてましたが、やがてこらえきれなくなって、先生に向かって文句を言ってしまったのです。先生が驚いているところに新聞記者が現れて、困ったメアリーは混乱のあまり、またもやひとりごとのように呪文を唱えて・・・
■解説
これがホラー作品なら、小さくなった人たちの運命は容易に想像できるのですが、恐ろしい結末はこの作品には用意されていません。それもそのはず、この作品は子供向けの童話作品なのです。
ほのぼのとした雰囲気の中、けっこうとんでもない事件が次々に起きます。本当はホラー作品なのではないかと疑いたくなるのも無理はありません。でも間違いなく、子供向けの童話です。原作者のレナーテ・ヴェルシュは、ウィーン生まれ。オーストリアの児童文学賞を受賞する作品をいくつも書いている実力者です。ドイツ語で書かれた原作は、私には読むことが出来ませんが、ささきたづこ氏の翻訳は軽快で、世にも不思議なこの話を面白おかしく楽しめるものに仕上げています。そうした面白さは、ただ童話らしい突拍子もないだけの話として書かれているのではなく、実はかなり緻密で写実的な文章表現に裏打ちされたものなのです。
この作品を読むと、想像力をかき立てるということと、想像力を必要とすることが違うということをはっきりと確認することができます。まさにこの作品は前者の好例で、情景が頭の中にすんなりと描くことが出来るように配慮された文章で構成されています。小学生向けの話ですから当然と言えば当然なのかもしれませんが、童話らしく理屈っぽいところがないにもかかわらず、大小の感覚を原作者のヴェルシュ氏、それに翻訳にあたったささきたづこ氏が、女性らしいきめ細やかな感覚で表現しています。また、この作品にマッチした挿絵を村田収氏が描き、この話をより一層素晴らしいものにしてくれています。小さくなった人間と普通の大きさの人間の共演を臨場感豊かに感じることが出来る作品に仕上がっています。
それから、この作品は子供心をくすぐる要素が満載されています。お人形とおままごと。それも、ただのお人形ではなくて、本当は立派な大人なのです。子供と大人の大きさが大逆転することで、大人の人の世話をしたり、大人が困っていることを簡単にやってけたりと、主人公のメアリーはスーパーヒロインのようです。こした大人への憧れを超越して、大人を超えた子供の活躍を読むのは、子供にとって爽快感のあるものです。もしあなたが大人なら・・・おっと、それはどう感じるかはご自分で確かめて下さい。
子供向けでありながら、大人も大いに楽しんで読むことができるのも、突拍子もない話でありながら写実的な文章によるだからでしょう。逸品です。
■あっ、ちぢんじゃった
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