ガリベラ
Manara作品
公開日:1999.06.12
更新日:2004.09.17
■あらすじ
彼女は不思議に思っていた。この一週間の間、彼女が水遊びをするお気に入りの入り江に停泊している帆船が1艘いたのだ。しかし、船に人影はなく動く気配もなかった。彼女エアマットを静かな水面に浮かべて寝ているときも、そしてそのまま寝てしまいちょっとした拍子から溺れそうになったときも、助ける者が現れることはなかった。エアマットを見失ってしまった彼女が、やむなく船に上った。そして船員を探してみたものの、誰も見つけることは出来なかった。そこで彼女が目にしたものは、古くぼろぼろになった英国旗と古い一冊の本。ジョナサンスイフトのガリバー旅行記だった。彼女がガリバー旅行記を手に取り読み始めると、いつのまにか嵐になり、やがて船は何かに引かれるように動きだした。
彼女はいつしか気を失っていた。彼女が目を覚ましたとき、そこは船ではなく砂浜だった。そして最初に目に入ったもの。それは彼女の胸の上を歩き回るこびとだった。彼女は驚きその場から逃げようとしたが、逃げるどころか身動きすらできなかった。彼女の全裸にちかい体は、無数の細い紐で砂浜に固定されていたのだった。無理やり腰を浮かすと足下が自由になったが、こびとたちの無数の矢が放たれることになり、それは彼女の体に痛みを与えことになった。彼女はおとなしくするしかなかった。
彼女がおとなしくしていると、こびとたちは食事や飲み物を運んできてくれた。一通り食べ終わると彼女は眠りにつき、寝ている彼女をこびとたちは台車で街に運び込んだ。
やがて国王と親愛の約束を交わした彼女は、リリパットの街に向かい入れられて盛大なパレードで歓迎された。彼女のまた下を大行進するこびとたち。彼らは上を見上げることは許されなかった。なぜなら、あたりの建物よりも遥に大きな彼女は英国旗を身にまとっているものの、下から見上げるこびとたちにとって下半身は丸見えだったからだ。
パレードも半ばで中断するしかなくなった。沖合に海賊たちが現れ、リリパットに向かってきたからだ。彼女は身にまとっていた英国旗を脱ぎ捨てると、海中に潜り海賊たちの直前まで泳いでいった。海賊たちは驚愕のあまり船を捨てて逃げ出した。突然目の前に巨大な怪物が現れたのだから。彼女は誰もいなくなった船団をリリパットまで曳航して持ち帰った。
彼女はご機嫌だった。海賊退治のお礼に、真っ赤なハイヒールと真っ白なドレスをプレゼントされたからだ。新しいドレスを着て悦に入る間もなく、王宮が火事だという。しかも后妃が王宮内に取り残されてしまったらしい。ハイヒールでこびとを踏まないように注意して王宮に向かった彼女が見たものは火の吹き出している窓の向こうから助けを求める后妃だった。しかし水をかけようにも、水を入れる入れ物が無い。息を吹き掛けて勢いで消そうとしたが、これは逆効果だった。彼女は最後の手段をとった。ドレスの裾を上げて、体を出来るだけ火に寄せ、下腹部に力を入れた。一気に火は消え后妃の頭のくすぶりも消し去ったが、后妃の心は怒りで燃え上がってしまった。
后妃のお礼を期待したわけではなかったが、叱咤されるとは思わなかった。彼女はリリパットを去り、再びあの帆船に乗って海原に繰り出した・・・
リリパットを離れた彼女は、別の陸地を見つけた。上陸した彼女を歓迎したのは、彼女の体と同じくらい大きなネズミだった。ネズミはいきなり襲ってきたが、彼女はこれを剣で倒して一難を逃れた。しかし驚いたことに、彼女の倒したネズミをつまみ上げるものがいた。巨人だ。つまみ上げた巨人は男で、もう一人の女の巨人にネズミを見せて驚かしている。このネズミに刺さった小さな剣に男の巨人が気がつき、剣の持ち主を探すため足下の石ころをどかし始めた。彼女は岩陰に隠れていたが、それは巨人にとっては小さな石ころだった。そして彼女は見つかってしまった。
見つかってしまった彼女は開き直って巨人に話しかけた。人間であることを主張し、食べ物を要求した。巨人の女は、牛乳に酒を混ぜて彼女に与えた。彼女の小さな体はほてり、そして巨人たちにおもちゃのように扱われた。そして彼女に待ち受けていたのは、小さな檻だった。彼女を檻に入れた巨人たちが目を放した隙に、大きな鳥が檻ごと彼女を大空にさらった。巨人は矢で鳥を撃ち落とそうとするが、矢は檻に命中し、檻は海の上に墜ちて壊れた。一命をとりとめた彼女の目の前に、またあの帆船が現れた・・・
こんどの大地には馬ばかりがいた。彼女は水を求めて、そして見つけた。彼女が水を飲んでいると、後ろから1頭の馬が。馬は彼女のお尻に尾が無いのが気になった。彼女は突然後ろから馬に犯されそうになって驚いて逃げ出した・・・
彼女の船の頭上に大きな島が現れた。その島は空高く飛んでいたが、そこから縄ばしごが降りてきて、彼女に来ないかと誘った。彼女は誘いにのり、空飛ぶ島にたどり着くとそこは女の天国だった。そこにはあらゆる快楽があった。SM、レズビアン、そして男はすべて従順だった。
しかし、彼女は家に帰りたかった。住み慣れた家に。そして彼女は空飛ぶ島から去った・・・
再び帆船に乗り込んだ彼女の目の前に陸地が。上陸した彼女の目の前には・・・
■解説
ガリバー旅行記そのままです。ただし主人公を女性に置き換え、まるのままのトレースではなく、ガリバー旅行記に導かれて不思議な冒険をするという趣向に再構成され、ガリバー旅行記とともに楽しめるように工夫されています。あらすじでほとんど内容は紹介しましたが、このあらすじを後でも楽しんでいただけるものと信じています。なぜなら、この作品の命は、とてもとても美しい絵にあるからです。
ガリバー旅行記は、日本では子供向け童話としてなじみ深い物ですが、原作は政治や宗教を風刺した物で大人の読み物です。ですから結構色っぽい話が出てきますし、生臭いところもあります。スイフト氏は、もともとグロテスクな描写を得意とする作家です。人間の醜悪さを書かせたら、おそらく当時、右に出る者はいなかったでしょう。そうした醜悪さの表現の中に、排泄行為が多々見られるために、スイフト氏はスカトロジストであったと見る向きもあります。この作品でも一カ所小人国で火事を小水で消火するシーンが描かれていますが、原作ではもっと多くの排泄シーンがあります。この作品は、そうした醜悪さを消し去った美しい描写のみで綴られています。甘美なエロスのエッセンスをガリバー旅行記からうまく抽出し再構成してあります。
ページ数から見て、Manara氏は馬との絡みは描きたくなかったのだと思います。なにせ60ページ以上ある本のたった2ページしか馬の国について割いていないのです。が、馬の国をはしょらなかったのは、この作品のミステリアスな狂言回しとともいえる帆船とスイフトに対する経緯であるのかもしれません。ちなみに原作では、この国の部分が非常にエロティックであったと言えると思いますが、Manara氏の趣向には合わなかったようです。
作者のManara氏はイタリア人ですが、世界中に多くのファンがおり、ここでご紹介したものは英語に翻訳されて出版されたものです。本国での原題は「Gulliveriana 」で1996年に発表されました。表紙や挿絵は異なります。オールカラー印刷、本編64ページ、イラスト4点の美しいコミックです。ただし、性的描写があるために成人指定になっていますのでご注意ください。しかし洋書を扱っている本屋で注文すれば手に入りますので是非手に取ってみてください。
■ガリバリアーナ
[img]■Gullivera
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