単行本「ミクロメガス」より
原著:ヴォルテール
公開日:2000.02.05
更新日:2004.09.30
■あらすじ
ミクロメガスはシリウス人で、その身長は約8里(120,000フィート=約39km)あった。この身長はシリウス人としては、平均的な身長だ。
彼は博学で才気に溢れ、本も書いていた。しかしその本は宗教的な論争を引き起こし、その論争の結果彼は有罪になってしまった。その刑罰として、彼は宮廷から放逐されてしまった。彼はこれを機に、己の知識を満たすために宇宙への旅に出ることにした。
知識の探求の旅の途中、彼は太陽系の土星に立ち寄った。土星人は身長が1,000トワーズ(約19km)にも満たないようなこびとではあったが、彼らは独自の文化や文明を持っていた。ミクロメガスは土星にとどまるうちに、土星アカデミーの幹事と親交を深めることができた。アカデミーの幹事は、ミクロメガスに土星人の発見について得意になって詳しく解説。それがきっかけで、2人の興味は太陽系の惑星に移り、ついには各惑星に行くことで意見の一致を見た。
そして2人は地球を訪れた・・・
■解説
哲学的な話です。ガリバー旅行記に触発されて書かれた作品です。スイフト氏がイギリス人の客観的な観点から作品をまとめているのに対し、ヴォルテール氏はフランス人らしい感性をもとに作品を仕上げています。
いささか宗教色が濃いのは、哲学が宗教とは切っても切れない関係にある上、この物語が書かれた目的が宗教的なガリバーの解釈であったと思われる事からも致し方のないところでしょう。ガルガンチュア物語もかなり宗教を持ち込んでいますが、この作品とは全く反対の側面から持ち込んでいるといえます。それについては、ぜひ読み比べていただきたいところです。
さて2人は地球に来て生命の痕跡を当初見つけられず、歩き回りそして大地をなで回しています。作品はあくまでも2人の感覚から書き上げているので、地上の人々から彼らがどのように見えたかについては興味深いものがありますが作品では一切無視されています。
地上を調べ尽くした2人は、やがて海上の船に気がつきますが、船が知的生命体なのかを調べるためつまみ上げ、爪の上に置いて拡大レンズで調べ始めます。そして船員達は、ミクロメガスと対等に話をするようになりますが、これはちょっと信じがたい光景です。感覚が優れたミクロメガスとの直接コンタクトが可能だったとしても、爪の上にいる人間の心理を考えると対等に話すことなどできそうにないのではないか。リアルに世の中を見ようとしたガリバー旅行記よりも、そうした疑問を大いに感じさせるのは、全ての前提がリアルとはかけ離れた感性の世界だからでしょう。この作品はかなり中途半端な視点で物事を推し量ろうとしています。作品の設定や進行にかなり無理があり、作者の意図と相まって作品を難解なものに仕上げています。しかしこの作品をファンタジーとして捉えると、まるで不思議の国のアリスの原形を見ているような、そんな印象を受ける内容です。
■ミクロメガス
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