メリサンド姫
公開日:2001.02.10
更新日:2006.10.30
■あらすじ
王女メリサンドが生まれたとき、母である女王は洗礼命名パーティを開きたいと望んでいた。しかし、父である王は命名パーティを行った後で、様々なトラブルが発生するのを何度も経験していたので、あまり乗り気ではなかった。
そして王の心配は現実のものとなってしまった。
命名パーティに妖精マリボーラを招待しなかったのだ。正確には招待状を出したが、マリボーラの元には届かなかったのだった。そして今、妖精達は城に押しかけて、招待されなかったことを非難しているのだった。女王は苦し紛れに、命名パーティは行わなかったのだと言ったが、妖精達は女王の嘘をいとも簡単に見抜く力があった。そんな混乱の中、邪悪な妖精の中でもっとも歳を取ったマリボーラは、女王の前に進み出ると言った。
「私は洗礼命名に素晴らしいプレゼントを添えることにしたと、今ここで妖精の王に誓う・・・王女にはげを与えよう。」
それを聞いた女王は気絶してしまった。そして女王が目を覚まし、王女の頭から帽子を脱がすと・・・帽子と一緒に金色の髪は抜け落ちてしまった。
王女の頭は、まるで卵のようにつるつるだった。
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王は王女が不敏でならなかった。そこで王の名付け親となった妖精教母に、一通の手紙を書き、蝶に託して送った。そして小さな小箱とともに返事が帰ってきた。王はさっそくメリサンドに小箱を使わせることにした。
メリサンドは小箱を開けながら、望みを願った。
「私の髪の毛は1ヤードの長さで、毎日1インチ伸び、切られるたびに二倍に成長する」
願いはかなえられた。そして王女の頭には、金色の髪が流れる水のように備わっていた。
しかし、メリサンドは計算違いをしていた。メリサンドの髪は毎晩1インチ伸び、3ヤードの長さになるまでに数ヶ月とかからなかった。あまりに長い髪の毛を切り、すっきりしたメリサンド。しかし、髪を切った後では、以前の倍の速度で髪は伸びていったのだった。
「はげのほうが良かった。」
メリサンドは心底そう思うようになった。メリサンドは髪を切ることもできず、長い髪で歩くこともできず、彼女の部屋は彼女の髪の毛で一杯になっていくのだった。
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その年は飢饉でした。国を養うには、何かを売らなければならなかった。そしてメリサンドの髪の毛は、国の重要な輸出品になった。しかし、飢饉も永遠に続くわけではなかった。
王は再び、妖精教母に一通の手紙を書き、ヒバリに託して送った。今度は手紙だけだった。王はさっそく手紙の通り、メリサンドの夫となるべき王子を探すことにした。しかしなかなか見つからなかった。
メリサンドがフローリゼル皇太子に会ったのは、その年の真夏の夜のことだった。窓にメリサンドを見つけた皇太子は、メリサンドの許しをもらうと、さっそうと窓辺に登ってきた。そしてふたりは愛を誓い合った。
フローリゼル皇太子はメリサンドを部屋から誘い出し、髪の毛を使って姫を地上に降ろすと、メリサンドの髪の毛を切ってしまった。ところが不思議なことにメリサンドの髪の毛は伸びることはなかった。
翌日、朝食の時、王の前でフローリゼル皇太子は説明をしたのだった。王はまだどこかに心配の種を残していたが、それはメリサンドが朝食の席を立ったときにあらわになった。メリサンドは立ち上がった、そしてさらに立ち上がり、そして・・・成立したメリサンドの身長は9フィートに達していた。
夕食の時刻になるころには、彼女は部屋に入ることが出来ない大きさにまでなっていた。メリサンドが泣くと、庭にプールのような水たまりができ、給仕の何人かがその中で溺れていた。そして、成長は止まることが無かった。不思議なことにメリサンドともに服も一緒に大きくなっていた。宮殿の庭にもいられない巨大な体は、まるで山のように人々の目には映った。
王は泣くことなく状況を把握しようとした。そして三度、妖精教母に一通の手紙を書き、イタチに託して送った。しかし今度は、妖精教母は引っ越したというメッセージだけが帰ってきたのだった。
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そんなおりに隣国の王が軍隊を送ってきたのだった。軍艦が押し寄せ、大軍が上陸した来た。しかし軍隊は、巨大な姫の手に捕まえられては、彼らの乗ってきた軍艦に降ろされるだけだった。巨大な姫に阻まれて、何も出来ない軍隊は、次の作戦を練ることにした。
その間にもメリサンドは巨大になっていった。すでに祖国である島は、巨大な姫の重さに堪えかねているようだった。メリサンドは足を海にいれてそこに立った。海の深さが足首をやっとぬらす程度の浅瀬に感じるくらいに巨大になっていた。そのメリサンドの足もとで軍艦が島を攻撃する準備をしているのを見た。巨大な足で軍艦を蹴ると、簡単に沈んでしまったが、そこに多くの水兵が乗っており、今の一撃で多くの命を奪ったことに、メリサンドの心は痛んだ。
争いを好まないメリサンドは・・・
■解説
絵本です。英語で書かれた5歳以上向けの本です。
原作はEdith Nesbit氏によって書かれ1899年に出版されました。それをP.J. Lynch氏のイラストともにNaomi Lewis氏が書き起こしたのが本書です。絵は絵本の挿絵として書かれたものですが、原画は度々オークションを賑わしていることからも判るとおり、絵画的な価値をもったすばらしいものです。
さて物語ですが、中途半端なお願い事が騒動を引き起こすという、童話形式の話です。人間にはどうしようもない厄災を話にし、そうした厄災にあったときの教訓あるいは希望として子供たちに聞かせるのが童話の目的であることが多いのですが、この物語もそうした童話のひとつです。フェアリーには様々な種類があるのですが、この物語のフェアリーは精霊的存在で魔力を持っています。そしてねたみ深い存在と淡白な存在の二極に分けることが出来ます。あるときは守護霊として、そしてあるときは呪縛霊として現れます。メリサンドにはどちらの存在も助けにはなりませんでした。しかし救いはあったのです。それがフローリゼル皇太子なのです。
女の子はこうした物語が好きですね。大抵の女の子は幼いころにこうした物語に触れ、そして王子様を待つようになるものです。こうした物語の主人公となる姫様は、何らかの問題を抱えており、それをも包みこむ王子の愛情に心を打たれるのです。この物語の場合の姫様は、他の姫様とはちょっと異なります。か弱くないのです。
メリサンドは、押し寄せてきた軍隊よりも強く、兵士たちを人形のように取り扱ったり、軍艦をおもちゃの船のようにあしらったりすることができるくらい、強大な存在です。しかし、そんなメリサンドもひとりの女の子であり、心はか弱く王子様の登場をまつ少女であることに変わりなかったのです。一方フローリゼルは、メリサンドがどのような存在であっても彼女を愛し、そして彼女が助けを求めるならいつでも力になろうという、大きな心をもっていました。そしてふたりは、それぞれ求めるものを手に入れることができたのです。
ここにちょっとした疑問が残ります。フローリゼルがメリサンドに出会ったときには、メリサンドは不幸な呪いを受けたか弱い少女でした。もし初めてメリサンドにあったとき、メリサンドがすでに巨人だったとしたらフローリゼルはどうしたでしょうか。確かに巨人となったメリサンドを愛しつづける寛容さを持っていましたし、その愛の深さを信じることも出来ます。しかし、当初は巨人ではなかったからこそフローリゼルは結婚を申し込んだはずです。巨人のメリサンドだったとしたら、フローリゼルは結婚を申し込んだでしょうか。きっと申し込まなかったでしょう。しかし、彼は申し込まなくても別のフローリゼルが現れたと信じることができそうな、そういった雰囲気をもつ物語です。
この物語を読むと、呪われたからこそメリサンドは、すばらしい伴侶を見つけることが出来たことが良く理解できます。おそらくメリサンドは、伴侶を見つけた後で、呪われたことに感謝したことでしょう。
ところで、メリサンドというとドビュッシーの歌劇を思い浮かべる方も多いと思います。歌劇ペレアスとメリサンドでは、メリサンドは美しいブロンドの長髪の姫様として登場します。そしてそのブロンドを窓からたらして、王子を窓から迎え入れます。ちょっと似てますね 。おそらくドビュッシーはグリム童話のラプンツェルから歌劇のヒントを得たのでしょうが、髪の長いメリサンドという条件の符合は、ドビュッシーがこの物語を知っていたのではないかと思わせるものがあります。
この物語は日本語訳になっています。しかし、このすばらしい挿絵はこの本だけです。
■翻訳本について
このメリサンドは、翻訳されて出版されています。絵本ではありませんが、この愛の物語を読んでみたいという方に、次の本をご紹介します。
■Melisande
[img]■ヴィクトリア朝妖精物語
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