大西 竜
公開日:2015.02.19
更新日:2015.02.19
■あらすじ
物静かなトオルは、周囲には気に入られてるタイプ。しかもどちらかというとモテるタイプだ。しかし、どういう訳か女の子に縁がなかった。
親元を離れて女っ気も無く一人静かに過ごす日々のトオルだったが、ある日押しの強い女の子に居候されてしまった。それもただの女の子ではない。手のひらサイズのこびとの女の子。
小さいくせに我の強い女の子。普通なら追い出すところだが、追い出すことができずにトオルの部屋に居候を決め込んだ女の子。トオルの心変わりを信じて、押して押して押しまくった。
邪見に扱うトオルだったが、いつしかそれも日常のイベントと化していった。
そんな日常の他にも、トオルのことを気にかける女の子が現れた。やがて彼女は、トオルの部屋の入口まで来て告白したのだった・・・
■解説
ストーリー展開は、いたって普通のラブコメですが、価値観の中にサイズという特殊な要素が絡んでいます。
いきなりトオルの目の間に現れた小さな女の子。その女の子に勝手に居候されてしまいます。そんな女の子を女性として見ることがトオルにはできません。女性どころか人間にも思えないトオルなので、こびとの彼女の素性を特に追求しようとはしません。そのため作品中で彼女の名前は不明のまま話は進行します。
トオルは性格も悪くなくルックスもどちらかと言えばモテるタイプなのですが、このように淡白すぎる性格からか女っ気が無い様子が見て取れます。何事にも受け身で、そのままを受け入れてしまう淡白な男の代表としてトオルの存在が描かれているように思えます。その淡白さが、特に否定することもなく肯定することも無く、こびとの彼女の存在をそのまま受け入れている状況を作ります。
一方、こびとの彼女は押しが強く、まるで物語の主人公であるがごとく自己中心的なものの考え方をします。普通ならストーカーと呼ばれてしまうところですが、その小さな体とトオルの性格に助けられ、犯罪的な状況にならずに二人の関係が成立しています。この二人の価値観は、それぞれ確固たるものがあるのを感じますが、その最たるものはサイズという目で見える分かりやすい物になっています。
やがて二人の間に別の女性が現れますが、その女性の最大の武器は体です。エロティックなボディとは言いがたいですが、こびとの彼女には超えられない、また叶えられない壁である性の対象としての肉体をその女性は持っているのです。それを武器にしてトオルに迫る訳です。こうして二人の女性がトオルの淡白さに対抗するようにして、自分を押し付けてくる訳です。がしかしアプローチの仕方が対照的に違います。方や体を武器にキスを強要、方や居候してプライバシーを侵害。どちらもはた迷惑な女性ですが、トオルが選ぶのは肉体を超えた所にあるこびとの彼女でした。何事にも正直で淡白なトオルは、自分が変態かもしれないと言葉にしますが、それでもなお普通の女性を振って、こびとの女性を選びます。他人の価値観に押し流されない強さをトオルは持っているのです。
作者は単なるラブコメとしてこの作品を描いたのだと思います。それでも物語の根底にには、恋愛感や価値観、性の存在を考えさせるものが流れているので、単なるドタバタなラブコメにはなっていません。またトオルの他人を気にしない自己の価値観を信じる姿を通して、個性の在り方についても肯定的に描いているように思います。変人や変態を肯定している訳ではありませんが、そういう偏見を恐れずに個性を発揮するトオルが魅力的に見えます。
ところで、こびとの彼女を選んだトオルが、自分が変態かもしれないということを口にしますが、このシーンはこの物語のクライマックスへのターニングポイントになっています。この言葉に深い意味合いがあり、たとえサイズ的な問題があっても肉体的な関係を結べるかもしれないというトオルの期待感が含まれていると考えられます。そしてそれは、普通のサイズの女性にとって敗北を意味することにもなるのです。一方でプラトニックの終わりとともに、サイズ的な問題は、むしろ一層現実的なところになったとも言えます。この作品がコメディでなくなった瞬間です。
この作品に教訓的なものを求めるのは筋違いですが、それでも作者の根本的な思想を感じることはできます。単にコメディで終わらせたくない、そうした作者の想いが込められた作品だったと思います。その結果、生まれた作品には味わいがあり、作者の手を離れて読者の頭の中で無限の広がりを生み出すことができるものになっています。また単に面白みを加え、さらには分かり易いキャラクターとしての存在であったはずのこびとの彼女は、非常に興味深い象徴的な存在になったと思います。
この作品にとってオチはあまり重要ではありませんが、それでも最後の一コマで語られる展開の先、こびとの彼女とトオルの第二の人生が気になります。
■月刊アワーズライト 2002年04月号
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