監督:ペドロ・アルモドバル
公開日:2003.08.06
更新日:2004.09.17
■物語
自動車事故に遭い植物状態となったアリシア。アリシアのためにアリシア専属の看護士となったベニグノ。アリシアにとって止まった時間。その4年間は、彼女への愛をつのらせていくベニグノにとって、それは至福の時であった。
ある日、病院に闘牛中の事故で植物状態となって運び込まれた女闘牛士リディア。リディアに付き添うマルコは、以前ベニグノがバレエ観劇で隣に座って涙を流した男だった。
ベニグノとマルコは2人の眠れる女性を通して親しくなる。やがてベニグノの唯一の友人となり、ベニグノはアリシアへの想いのほどをマルコに打ち明けた・・・
■孤独な愛
この映画を語るのは愛について語るのと同じだ。もちろん、この映画が示す愛のかたちが全てではない。
この映画に登場する男たちは、皆、身勝手な愛を女に送り続けている。その愛は孤独で切ない。しかし、そうした愛が必ずしも報われない訳ではない。特にベニグノのアリシアに対する愛は、静かで情熱的で、そして身勝手な愛ではあったが、涙に値する愛のかたちだった。しかし、ベニグノの愛は終わることなく続いていく。これ以上はここでは言えない。気になる方は、映画を見てもらいたい。
私自身、愛を語るにはまだまだ人生修行が足りないかもしれない。しかしもしこの映画を見て、誰の愛も報われていないと感じたなら、もう少し恋愛で痛い思いを経験しても良いだろう。
■キーとなる劇中劇
劇中劇で始まり劇中劇で終わるこの映画は、劇中劇に物語の秘密が隠されている。この映画は、さり気なくオムニバスの形式を持ち込んでいるが、そのオムニバスの物語の中のテーマとも言える部分が劇中劇で説明されている。
その中で映画をクライマックスに持っていくキーとなったのが、ベニグノが見たサイレント映画「縮みゆく恋人」だ。白黒の映画を静かに熱く語るベニグノ。彼が弁士となってサイレント映画は進行していく。そうしてやがて弁士と主人公は一体となっていくのである。この映画の中心テーマかも知れない。滑稽で悲しい物語だ。
ところでお気付きの方も多いと思うが、この「縮みゆく恋人」の原型は「縮みゆく人間」である。アルモドバル監督の解釈を付け加えて、再編されたといっても良いだろう。嫉妬する男。男の価値。男が最後に目にする世界。縮みゆく男と比較するのも良いだろう。注目に値する劇中劇である。
■劇中劇「縮みゆく恋人」
科学への狂信的追求を続ける女科学者。とうとう彼女はある薬を造り出したのだが、なんとそれを彼女に恋する男が全て飲み尽くしてしまったのだ。
日々少しずつ体が縮んでいく男。男は書き置きを残し実家へと隠れてしまったのだ。やがて女科学者は男を探し出したが、男は手のひらのサイズにまで縮んでしまっていた。
その晩泊まったホテルで、男は献身的に恋人を愛撫する。彼女の体は柔らかく感じやすい。やがて男としてしなければならないことをする時が来た。男は死を感じながらも、その死の向こう側にあるものを信じていた。そして愛する恋人の体の中へ・・・
そして男は戻ることはなかった。
■トーク・トゥー・ハー
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