単行本「8マン 第4巻」より 魔女エスパー
桑田次郎:絵
平井和正:原作
公開日:2000.02.02
更新日:2004.09.17
■あらすじ
東八郎は、さち子と一郎をビバトロンの見学に来ていた。ところが見学中にビバトロンに事故が発生、放射能漏れを起こしてしまった。その時、見学をしていたひとりの少女がビバトロンの上に落ちてしまった。東は8マンとなって少女を助けることができた。しかし、少女は多量の放射能を浴びてしまった。
少女の名前はナミ。ナミは、奇跡的にかすり傷だけで済んだ。
その事故を境にして、ナミの周りで恐ろしいことが次々と起きる。東はナミに関係があると思ったが確証がなかなか得られなかった。しかしそんな東にナミが相談、そして自分の中におそろしい魔女のような人格を持った別の自分がいることに気がついた。そして、魔女の人格が現れたとき、魔女の超能力で恐ろしい事件を起こしていることに気がついたのだった。
そんな魔女の人格を押さえきれないと思い悩んで、ついにナミは自殺しようとした。しかし、そのナミを押さえて魔女が現れ、ナミの体を完全に乗っ取ってしまった。
魔女に対抗する手段を考えていた東は、やがてあることに気がついた。魔女となったナミが超能力を発揮するのは、ビバトロンの出力が上がっているときだったのだ。そして、8マンとなった東と魔女となったナミはビバトロン研究所で対決するのだった。
■解説
桑田次郎の代表作になります。8マンは人間に似せて作られたアンドロイド(ロボット)です。クールな線の桑田次郎の絵は、SF、特にロボットやメカニズムが多く出てくる作品にぴったりだと思います。
8マンという作品は、当初週刊少年マガジンに連載されていましたが、その後アニメ化されました。作品が連載されていた1960年代は、日本が戦後の影から今ひとつ抜け出られない時代だったと言えます。本作品に限らず多くのマンガ作品で、何かしらの戦争の影を感じ取ることが出来ます。8マンでもそういった影を感じますが、特にこのエピソードは放射能に対する脅威を盛り込んだ形になっています。放射線の及ぼす影響についてまだ知識の浅かったころの話で、また実際に政府機関や研究所で放射能を使っての放射線の影響実験を行っていることが一般の関心事でもあり、そうした世相を取り入れたエピソードと言えます。
被爆したナミは、被爆者に対する偏見も含まれているようにも見えますが、作者達の意図はもっと別の所にあったのだということは、作品を読めば分かります。言うまでもなく、放射線は人の五感では感じられずに肉体に影響を与える物です。そうした恐怖が増幅された形で具象化したエピソードなのです。放射線が生物に与える影響など研究が始まったばかりであり、また平和利用の原子力も技術的はまだ途上であったことから、放射能はホラーの要素としてマンガに取り入れられることが1970年代ごろまでは良く見られたと思います。
このエピソードで面白いのは、生きる人間が影響を受けてしまう危険な区域に、無機質な8マンが問題ともせずに普通に活動していることです。また、影響を受けた人間が悪魔的な存在になり、無機質なはずの8マンがより人間的な存在に見えるところです。人間の本質は何か、生きるということは何かを問いかけているようなエピソードになっています。
ところで8マンはアンドロイドで、何か原則的な思考回路を持っているようです。基本的にはアシモフのロボット3原則に従っているように見えますが、時として悪人を殴りつけたりするので独自の原則があるようです。人間に似せて作られたロボットというよりも、人間の頭脳を持ったサイボーグのようにも見えます。
桑田氏の漫画はSFにありがちな理屈っぽさが少なく、エンターテイメントに徹した作品が多いのが特徴です。そのセンスは現在でも通用するのではないかと思えるようなものが多いのも特徴のひとつです。
さて社会的営みにおいて人間として生活するのは、スーパーヒーローにありがちなパターンです。8マンの職業は私立探偵で、その名前は東八郎(あづまはちろう)と名乗っています。8マンの名前はあまりに有名ですが、この設定についてはあまり知られていないようですね。
本文中の敬称は省略させていただきました。
■追加情報
さて、これまで単行本に収められたものは、連載当時のものではなく大幅に編集されたものです。これまでと書いたのは完全版が発行されているからです。もし、桑田次郎氏の作品を本当に楽しむつもりなら、リム出版から発行された完全復刻版を薦めます。
「魔女エスパー」は、完全復刻版の第4巻に収められています。
■8マン 《第4巻》
[img]■8マン【完全復刻版 4】
[img]■8マン 完全版 第3巻
[img]
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