巨人の国へ

作品:吉橋通夫

あらすじ

青銅器時代。七つの国が一つの大陸にあった。きしむ氷の国、もえる山の国、かがやく森の国、かおる草原の国、きらめく川の国、よせる波の国、そして、とぶ砂の国。それらの国は対立して入り乱れての戦いをしていた。

イナバシは立派な青年で、とぶ砂の国の戦士だった。イナバシはゲアロッパを隊長とする部隊に属して、これまで多くの手柄を立ててきた。しかしそれは、彼一人の手柄ではなく、同じ部隊の仲間に支えられて成しえたことだと十分にイナバシは承知していた。そんな戦いに暮れる日々だったが、ある日ゲアロッパ隊長が部隊の新しい使命を隊員に伝え、その日を部隊が相手にすることになったのは巨人となった。巨人の国に潜入して、偉大な武器「ヒシバリ」を手に入れ、今の戦局を一気に変えようというのだ。

巨人の国。それは海を隔てた地にあり、巨人達は強大な力を持っていた。イナバシは戦士として戦場で戦いたかったが、隊長の命令に背くことはできない。イナバシを含むゲアロッパ隊は、偉大な武器ヒシバリを求めて巨人の国に渡った・・・

解説

この物語の主人公は、あくまでも人間である。巨人はまるで、自然の驚異のように扱われ、まるで存在感が無い。巨人の国には、巨人の生活空間があるはずなのに、この物語では全く出てこない。もちろん巨人は物語に絡んで登場するが、非常に希薄な存在である。こんなにも希薄な存在の巨人ではあるが、登場したときはその強大な力を発揮する。なんとも不思議な感じがする。矛盾に満ちた巨人を登場させて、作者はいったい何を言おうとしているのか。

この物語の巨人達は食事もしなければ、便所に行くこともないようだ。家すら持っていないだろう。でなければ、もっと生活しているという証拠が出てくるはずである。人間の形に似ていて、人間とは全く異質の生命。そういった類いを人は神と呼ぶ。しかしこの物語の巨人達は神と呼ぶようなものではないようである。もっと、空気のように希薄で、それでいて圧倒的な力を持つもの。まるで自然そのもの。そう巨人は自然の記号化したものだ。

自然は人間に対して圧倒的な力を持っている。しかし、人間は自然を苦しめる力を持っている。決して自然を殺すことはできないが、苦しめて弱らせる力を持っている。しかし、それは人間そのものの存在をも危うくしかねないことでもある。いつしか、人間は自然を必要としなくなるかもしれない。しかしそんな世界で人間が育つとは思えない。人間は自然の驚異の中で淘汰され進化し続けてきた。自然が無い所で、どうやって進化していくというのだろう。もし合理性だけが追及されれば、それこそ怪しげな宇宙人グレイのようになってしまうに違いない。そうならないように自分の能力に枷を課して、自然とともに人間らしく生きていく人たちの姿が、この作品から読み取ることができよう。児童向けらしい、まっすぐに生きていく人たちの話である。

Published : 2001.01.06
Update : 2004.09.17

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