The story of Chinaman's Hat

チャイナマンズ・ハットの物語

Dean Howell(ディーン・ハウエル)作品

あらすじ

シンウェイという美しい小さな村が中国にありました。その村にリックビーンという男の子とメイメイという女の子が住んでいました。二人は仲のよい友達でした。その証拠にリックビーンのかぶっている帽子は、メイメイの作った帽子の中で一番の出来映えのものなのです。

幸せそうな二人でしたが、リックビーンには悩みがありました。彼の体はとても小さく華奢で、メイメイとはつり合わないのではと、悩んでいたのです。そんあある日、リックビーンは漢方薬屋のフォン家のお店を訪ねました。お目当ては体を大きくする薬でした。フォンは、リックビーンの小さな体を診て彼にぴったりの薬を調合しました。それこそが、リックビーンの望む体を大きく強くする薬だったのです。フォンは、一度にたくさん飲まないように注意をしてリックビーンに薬を渡しました。

リックビーンはいつも人の話をちゃんと聞きませんでした。母の話ももちろんフォンの話もちゃんと聞かなかったのです。リックビーンはフォンの店を出て人気のない村はずれにやってくると、薬を全部一気に飲んでしまったのです。 するとどうでしょう。リックビーンの体は、みるみる大きくなっていきました。今までの何倍も大きく大きく、どこまでも大きくなっていくようでした。慌ててきつくなった服を脱ぎ捨てました。

「きっとメイメイがこんな姿を見たら、大笑いするか悲鳴をあげるかのどっちかだ!」

彼はこんな姿になった自分をメイメイに見られたくありませんでした。そこで村を出てどんどん歩いていきました。そしてとうとう海に出ました。

海に出た彼はメイメイからもらった帽子を眺め少し落ち着きをとりもどしました。その帽子は彼の親指がかぶるのにちょうどよい大きさでした。彼は大事な帽子をかぶることができなくなってしまったのです。大事な帽子をなくさないように、いつのまにか長く伸びた鬚に結び付けました。そして走り出し大きくジャンプすると暗く深い海の中に飛び込んだのでした。

リックビーンは深い眠りについていました。潮の流れは眠りについた彼を優しく運んでいきました。そしてなんと彼が目をさました時、南の島にいたのでした・・・

解説

素晴らしい本です。何が素晴らしいかというと、絵と話が融合していることはもちろん、その突拍子もない話をさらりと描いてしまっていることです。海の中で寝てしまった…、眠っている間に流されて南の島にきてしまった…、なんてファンタスティックな話なんでしょう。楽しいじゃありませんか。

チャイナマンズハットというのは、ハワイのオアフ島に隣接した島ともよべないような小さな島の名前です。その名の示すとおり、中国人の被るような帽子の形をしている島です。その島の形を見て、こういった話ができるなんて、なんて素敵なことでしょうか。

撮影:X-Virus

でも、ちょっとうがった見方をすれば、中国人に対しての先入観がいっぱい詰まっている話だとも言えます。どこがそうなのかという説明は致しませんが、この物語には一般的なアメリカ人が考える中国人の姿が織り込まれています。しかし童話というものは多かれ少なかれそうした先入観や偏見の集合体のようなものではないでしょうか。そうした偏見を極度に嫌っていくと、世の中に残る童話や民話は無くなってしまうのかもしれません。

ところで、偏見から子供を遠ざければ、偏見のない子供に育つのでしょうか。

違うと思います。子供は多くの偏見や先入観の中にいながら大人になっていくとき、それが偏見や先入観であることに気がつくものなのです。もし、そうした成長過程のない子供がいるとするなら、大抵の原因はその子の周囲の環境にあると思います。

今、日本では作品の内容を取り締まるための法律ができようとしています。趣旨は良く分かりますが、こうした法律がなければならない理由について今一度考えてみる必要があると思うのです。法案が通れば、この本も読むことのできない国になってしまうかもしれません。いい本も悪い本も、すべては人それぞれの価値観でしかないことなのです。そしてしっかりと価値観があれば、あなたは、自分で本を選ぶことができます。人の価値観と自分の価値観が違うなら、大いに議論するべきで、法律で取り締まるべきことではないのではないでしょうか。

あなたは、自分で本を選べますか?

Published : 2002.09.08
Update : 2004.10.01

[ Prev page ] [ Category index ] [ Next page ]

You can find the work by a keyword.

Keyword: