テレビの国のアリス

NHKドラマより

山元清多 監督作品

物語

お父さんは、家路を急いでいた。手には大きなリボンのかけられた箱。電車を乗り継ぐお父さんの手の中で、箱は不思議な光を放っていた。家に帰ると娘が迎え出てくれた。

今日は女の子の誕生日。女の子がお父さんを心待ちにするのは、お父さんと一緒に誕生日パーティーを過ごしたいからだけではなく、その手にあるお父さんからのプレゼントにもあった。そして楽しいパーティーが始まった。女の子がケーキのキャンドルを吹き消したとき、うさぎの時計が午後の7時をさしていた。

突然、うさぎが走り出し女の子のためのプレゼントを持って逃げ出した。女の子は取り返すため追いかけると、うさぎはおもちゃ箱の中に消えてしまった。女の子も追いかけておもちゃ箱の中に消えていった。

そこは不思議な世界だった。女の子がうさぎを追いかけるには合言葉が必要だった。

「わたしはアリス」

小さな部屋に入ると、女の子はみるみる大きくなって部屋の天井を突き破ってしまった。

大きくなった女の子は、しばらく街の中を歩き回るがなんだか悲しくなってしまった。泣き出した女の子の体は、こんどはみるみるうちに小さくなってしまった。小さな女の子の目の前に、大きな空き缶が。そう、女の子は空き缶より小さくなってしまっていたのだった。

解説

この作品の原作は、タイトルからお判りの通り「不思議の国のアリス」です。現代版不思議の国のアリスのお話です。

原作は作者のアリスをこよなく愛する気持ちであふれていますが、この作品からはそういった感情は抑えられて作られています。感情表現を押さえた、いわゆる映像的表現重視の傾向は、この番組が作られた頃に多く見られた演出だと思います。このころは映像的な表現が重視された短編作品が、世界的に生み出され始めたころで、この作品もそうした潮流の中で生み出されたのだと思います。

映像的表現と言えば、ちょうど時を同じくしてヤン・シュヴァンクマイエルが発表した作品「アリス」も同じ題材です。テレビの国のアリスが愛情表現が押さえられているとは言え、シュヴァンクマイエル作品に比べて山元作品は愛情に満ちていると言えます。映像重視の潮流にあって、山元監督の優しさが十分だったとと言えるでしょう。不条理さが際立つ物語で、かつ映像の面白さが目立つ中で、根底にはしっかりとした情感がしかれた作品だと思います。

アリス役は、F1レーサーのジャン・アレジと結婚した後藤久美子。うさぎの声には笑福亭鶴瓶。鶴瓶の演じるうさぎ役の声に、アリス役の後藤を包み込むようなやさしさがあり、そのあたりがほのぼのした作品に仕上りに貢献しています。

注:文中の敬称は省略させていただきました

Published : 2000.02.05
Update : 2009.06.24

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