マリィ・ザ・サイクロン

第6回永井豪新人賞
ストーリー部門佳作

乾一郎 作品

あらすじ

ドジで役立たずのマリィ・シノプサイト。彼女が出稼ぎにやってきたタスマール王国。故郷ではチビスケの彼女も、ここでは巨大決戦兵器なのだ。

「大体この街は広すぎます」

生来のドジッ子娘ぶりを発揮するマリィであったが、それでもなお必死に頑張っていた。しかし普通なら些細な問題で済むようなことも、巨人の彼女が引き起こせば大惨事である。周囲の意見に押されてしまった隊長は、除隊を言い渡すために彼女の小屋に向かったのだった。

しかし気のいい隊長は、彼女のひた向きさに除隊を言い渡すことができなかった。二人は迷惑をかけないようにするため、王国の人々の役にたつため、猛特訓を始めたのだった・・・

解説

マリィちゃん、可愛いですね。体の巨大さを描きつつも、可愛さを保ち、また普通の人と同じフレームに入れるのは、相当な画力を必要とします。

例えば顔。大きな顔と小さな顔が同じフレームにあるとき、顔を同じように描いてしまったのでは、大きさの違いが質感となって表現されないのです。実は大きさの違いによって描き方が変わるのです。それはとても微妙なバランスで、統一された雰囲気を保ちつつ、大きさの違う相似形のものを同じフレームに入れなければならないのです。そしてそうした表現を絵で出来ている作品は少なく、この作品は その数少ない秀逸の表現力で描かれています。

漫画作品は、絵柄、世界観、物語がバランスよく噛み合わさっている必要があります。特にファンタジーの場合には、世界観をリアルに、そしてバランスよく導入する必要があります。説明的になりがちな世界観ですが、この作品の場合導入部に説明文が入っているものの理屈っぽくなく、受け入れやすく描かれているのは乾一郎氏のセンスの良さを感じます。また、ありがちな単純な人物設定ではありますが、上手く書き分けていると言えるでしょう。最近の傾向として、ややこしい人物関係を持ち込んでドラマを盛り上げていく作品が多いのですが、ファンタジー元来の持つ面白さは世界観そのものであり、この作品はそうしたファンタジーの王道とも言える面白さを感じさせてくれます。

雑誌の編集において、こうした素直な作品が削られてしまっているのではないかという危惧を最近感じています。新人を育てる余裕が、現在の漫画界には無いと言うことなのでしょうか。もっとも、数多くのメディアが存在する中、これまでのように漫画が子供社会でののメディア王でもあるかのようにはいかないのは事実だと思います。そうした業界を外から見ていると、まるで不動産神話に頼ったバブル経済を見ているような、そんな気になります。時代とともに変化する社会が、メディアへ求めるものが変化するのは当然です。その変化を見極めることができないと、面白い漫画作品は一般流通から消え、同人誌だけになってしまうのかもしれません。

とにかく、今後が期待できる作家が現れたことは、とても嬉しいことです。

Published : 2002.09.16
Update : 2004.09.17

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