Hall

六本木クロッシングを見て

2004.02.14

森美術館

 時はバレンタインデー。場所は六本木ヒルズ。バレンタインデーの六本木はバラの花束を持った男や女たちが目につく。そんな雰囲気の中、現代美術を見にいった。美術の知識のあまりない者にとって、現代美術は敷居が低いと思う。特にフィーリングに訴えてくる作品が多いのがいい。時として嫌悪感を覚える事もあるが、それもまた一興だ。

 森美術館は、六本木ヒルズの53階にある。入り口は52階だ。しかも展望室と同じ入場券だ。つまり展望室目当ての人でも、そのまま美術館にもいけるという、美術館としては異色の設定である。そのため、現代美術などまったく興味ない人々も多く入場する。敷居の低さでは、○○秘宝館なみである。よって美術品も触る叩くは当たり前で、踏まれたりされているものさえある。館員らも、すでにあきらめたのか、立ち話に盛り上がって、客の動向など気にしない様子だった。なにか都会では失われた大らかさすら感じてしまった。とても珍しい光景を見せてもらえて楽しめた。

 美術館目当ての者としては、展望室と同じ入場券というのは得した気分になる。なにせ東京を一望できる展望が無料でついてくるからだ。しかも天気がよければ、バルコニーからガラス越しではない生の景観すらたのしめるのだ。何かの素材作りにはもってこいだ(笑)

小谷元彦

 入り口を入ってすぐの小部屋。フェロモンを強烈に放つ作品が呼び止めてきた。小谷元彦のCG作品だ。彼はいつかこういった作品を作ると思っていたが、その期待を裏切らなかった。GTSではないが、同じ匂いがする。

 明るい少女の歌声が、フェロモンの代わりに小部屋を充満。かわいらしい少女は、巨大なスクリーン上で、画面にいっぱいの口を開けて小さな虫を食べる。大きく開かれた口は、そのかわいさとは裏腹に、恐怖さえ感じさせることもあるだろう。人によっては、別世界への入り口にすら見えるかもしれない。かわいさとグロテスクさとを両方一緒に見せてくれる。とかっこ良く書いたが、笑いながら見てしまった。エンドレスのCG作品。

西尾康之

 順路に沿って行くと、独特の技法で生まれたオブジェが空中から下がって回転しているのが目に入ってくる。西尾康之の作品は、雄型を使わずに雌型を指で直接作り、そこにプラスターなどを流し込んでいる。内側から造形する技法のためか、それは外に向かう力となり、作品に爆発するようなパワーを与えている。独自のその技法は、独特の雰囲気を持っているため、一度作品を見た者は、別の作品を見てもそれと分かるようになる。

 そのオブジェに気をとられていると、後ろから視線を感じた。振り返るとそこには、飛行機を身にまとうように破壊し、足下のビルを踏みしだく巨人がこちらを睨んでいた。女性の巨人だ。

 巨大なレリーフ状の作品で、こちらの目線は女巨人の腰のあたり。その股間でも飛行機は無惨に破壊されている。破壊された飛行機はざっと22機。バースデイキャンドルの代わりにでもしたのか。その破壊した飛行機を勝ち誇るったように身にまとっている。荒々しくビルを踏みつぶす脚にはブーツ。西尾康之の原点といえるジャイアンティスの姿がある。素晴らしい肉圧満点作品だ。

 帰りがけのショップで、絵はがきとキーホルダを発見。思わず買ってしまった。

会田誠

 広い空間に巨大な作品。やはり作品は生で見るのがよい。縦6mもの作品の大きさを形成しているものは巨大な少女だ。作品が巨大なだけでない、背後の二階建て住宅型地底走行車?と比較して巨大なのだ。しかも作品の高さ目一杯が少女の裸体。近づいて見上げると、改めてその巨大さに圧倒される。

 大きさだけをいえば、名古屋のナナちゃんとどっこい。ナナちゃんと比較する事自体不謹慎かもしれないが、見たときにふとナナちゃんと同じ圧力を感じてしまった。ナナちゃんが立体物であるのに対し、こちらは平面だ。しかし平面であるのに圧倒的な生々しさがある。その裸体からは、匂いすら感じるようだ。

 匂いと言えば、会田誠の最近の作品は、山口晃と同じ匂いがする。山口が繊細であるのと対照的に、会田の作品はダイナミックである。それでもなお、同じ匂いのするのは主線のせいだろうか。この主線の使い方は漫画にも似ている。非常に整理された線である。

 今回の展示では大山椒魚も展示されている。これも写真などでは伝わらない巨大な作品ゆえのダイナミックさがある。山椒魚が小さい存在だという先入観を捨て去れば、また別の物が見えてくるようでもある。大山椒魚というものは、もしかすると、とんでもなく大物なのかもしれない。

実物を見るという事

 やはり作品は実物を見なければ本当の価値は判らない。大きさとか、細部とか、そういったことではない。展示の方法等も作品の一部だし、実際、展示された空間でないと伝わってこない感覚がある。この感覚的なところは不思議なもので、体調や精神状態はもちろん、屋内展示であっても見る時間帯によって違うように感じることがある。最初の第一印象は、とても大切だ。しかし、何度か見るうちに、飽きてしまったり、別の発見があったりもする。作品集も、ひとつの展示方法ではあるが、やはり生の実物を見るのは、作品集100冊を見るのよりも価値がある。百聞は・・・である。一見する機会は、あるときにしておいた方がよいと思う。

情報

●場所:
森美術館(六本木ヒルズ52~53階)

●会期:
2004年2月7日~4月11日(会期中無休)

●開館時間:
 月・水・木 10:00-22:00
 金~日・祝前日 10:00-24:00
 火 10:00-17:00

●入館料:
 一般1500円
 学生1000円(高校・大学生)
 子供500円(4歳以上~中学生)

注:文章中の敬称等は省略させていただきました。