目の不自由な物乞い。しかしどことなく気品のある風ぼうの若者。ふとしたことから、大臣のハレムに招き入れられた。そして、目を直してくれるという。しかし、若者は目が治ることを良しとしなかった。そしてその理由を淡々と話始めた。
「私の連れの犬は、もとは犬ではなかった。機知に富んだ盗賊の少年だった…」
私は、そのとき王だった。アーマド王。それは私のことだ。私にかなわない望みなど無いように思えたが、その実権は大臣のジャファルの手にあった。しかし当時の私にはジャファルに言いくるめられた何もできない存在だった。すべてジャファルにまかせていれば、楽しいことばかりだった。それはスリルもないもない生活だった。
ある夜私は、お忍びで待ちに出た。そこで聞いたのは、自分への悪口、そして非難のことばだった。臣民はジャファルの政策に不満を持っていたが、それは同時にアーマド王の政策でもあった。自分の愚かさを悟った私だったが、すでにジャファルの罠に落ち、狂人として投獄されたのだった。
しかしそれ私にとってよかった。その牢獄で、少年に出会ったのだ。少年は牢獄の中だというのに、希望に満ちた目で自分の夢を語ったのだった。大きな船に乗って、インドや中国に行く話をする少年。しだいに打ち解けあった私と少年は、牢獄を抜け出したのだった。そして少年の小舟で追っ手を交わして逃げたのだった。
少年はアブーと名乗った。私がアーマドだと知っても、少年は非難することはなかった。そう、臣民の敵は私でなく、悪政のもとはジャファルにあったことを賢い少年は理解してくれたのだ。そして、少年の輝く瞳は、まっすぐに少年の未来を映していた。その未来に向かっていくことを、私と共に向かって行くことを約束して…
私と少年は、ある大きな街に着いた。空かした腹を満たすために立ち寄っただけのその街で、私はその国の王女に一目ぼれしてしまった。そして私は、少年との冒険の約束よりも、王女をとってしまったのだ。
「そこに私を待ち受けていたのは、悲惨な運命だった。私は光を失い、そして少年も舞い添えで犬にされてしまったのです。私は今でも王女を探しているのですが…」
「その王女はここにいます。奴隷商人に売られ、その後わたしどもの主が買い取ったのです。しかし王女は意識もないままに床に伏せております。」
なんということだろう。若者がもう二度と会えぬと思った王女。その王女に会えるのだ。そして、奇跡が起きたかのようだった。若者が床の脇に立つと、なんと王女が目覚めたのだった。しかし若者は、知らなかったのだ。ここの主こそがジャファルであるということを。
結局、王女はジャファルの船で連れ去られてしまった。さらに犬となったままの少年は海へ投げ込まれ、そして若者は光を失ったままひとり取り残されてしまったのだった。ところがどうしたことだろうか、突如若者の目に光が戻ったのだ。そして若者はその光の中に、走り寄ってくる少年の姿を目にしたのだ。ふたりは早速小舟でジャファルの船を追った。が、ジャファルの魔術によって引き起こされた嵐のために、海のもくずとなってしまった…
いや、少年は生きていた。壊れた小舟とともに砂浜に打ち上げられていた。しかし、若者の姿はそこにはなかった。若者を探す少年。少年が若者の代りにみつけたのは、奇妙な形の壺だった・・・