緑は秋彦のことが好きだったが、秋彦は織江とつきあっていた。秋彦と織江は相思相愛だった。しかし緑は織江よりも自分の方が秋彦を愛していると信じて疑わなかった。織江と秋彦の家に電話をかける緑。そんな緑に織江と秋彦は、ほんのりとした恐怖を感じていた。
ある日緑は、小さな社で妖怪の親子が、なにやらしているところを偶然に見てしまった。その妖怪の親子は指にも満たないほどに小さな妖怪だった。妖怪の親子は、別の妖怪、妖怪打出の小槌を使って食べ物を大きくしていた。そのとき緑は、ある計略を思いつき、その打出の小槌を手に入れるべく、妖怪の親を踏みつけた。妖怪の親は、子供の目の前で無残にも緑の足の下敷きとなってしまった。そして緑は、妖怪打出の小槌を手に入れた。
緑は家に戻ると、織江の写真を取り出して、小槌を振った。すると織江の体がみるみる巨大化しはじめたのだった・・・
(c) 御茶漬海苔 / ぶんか社
解説
恨む相手を巨大化させるというのは、めずらしい発想です。他にはないのではないかと思います。恨む相手を小さくするという方が、「小さい=無力」という判りやすい話にまとめられるからでしょうか、大抵の物語では恨む相手を小さくするか自分が巨大化します。
相手を巨大化させるという考えは、主人公の緑の性格にはぴったりの方法です。なぜぴったりなのか。まず、緑の性格を考えてみましょう。
緑は物陰から秋彦の様子を観察しています。いつもそうしているのかは、作品には書かれてはいませんが、おそらくそうしているのではないかという雰囲気は漂っています。また、緑が機会があるにも関わらず、直接秋彦と話すことなく電話を使うところから、内向性が強い性格だと思われます。それでいながら、電話でははっきりと自分の意志を伝えています。つまり、状況によっては内向性の性格を飛び越えて、相手に強く出ることがあるということです。緑のこうした性格を考えると、人目を引くような目立つ行動はできないでしょう。しかし人目につくことさえなければ、緑は時として恐ろしい行動に出ることができるのです。
こうした性格は、妖怪の親を踏みつぶすシーンによく現れています。自分よりも明らかに弱い存在には無慈悲で、そして人目につくことさえなければ、殺すこともたやすいのです。また織江を巨大化させて、怪獣のように自衛隊に攻撃される様を見るというのは、まさにストーカー的要素が充分にあって、緑の性格にふさわしいといえます。
御茶漬海苔氏のこうした陰湿な性格の描写には感服します。御茶漬海苔氏が計算して構成しているのか、こうした感性を持っているのか、おそらくはその両方でなのでしょうが、見事に描きあげています。
記事公開日:2000.10.18
記事更新日:2004.09.17
妖怪物語 《第2巻》
発行 | ぶんか社 |
初版 | 1997年8月1日 |
ISBNコード | ISBN4-8211-9586-0 |
本体価格 | 390円 |
サイズ | 一般コミック・平綴 |
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