「女子ひとりでは物騒じゃ、兄者が戻られるまで一緒にいてさしあげよう。」
なつめの父が熊野詣に出て戻らぬまま3ヶ月が過ぎた日のこと、叔父の一家がそう申し出てくれた。しかし、叔父のやさしい言葉は最初だけだった。
「今ではすっかり主人面して、なつめ様を物置き部屋に追いやって…」
なつめの従者は不満であったが、どうすることもできなかった。
ある日のこと、叔父の娘達によってけしかけられた野犬が、なつめの指を噛んでしまった。噛まれた指は、いっこうに直る気配もなく、それどころか痛みは増すばかりだった。
それは夜のことだった。なつめは、あまりの痛さに指の包帯をとって傷を見た。指はどす黒く腐り、なつめの見ている間に崩れ、なかから奇妙な人間に似た化物が出てきたのだ。化物はなつめの針箱から針をとりだし、逃げようとした。なつめはいやな予感に襲われ、なんとか化物を捕まえようと、懸命に追いかけたが逃げられてしまった。
翌日から、叔父夫婦それに従姉妹達が一寸法師のような人型の化物に襲われる事件が相次いで起きた。まるで、なつめのために復讐するがごとく…