少女はいつしか森の中を歩いていた。緑の美しい森だった。うっそうとした森の中を続く径を歩いていくと、行く手に光るものがあった。
それは小さな水晶玉だった。
少女が水晶玉を手にとると。その手の中で美しく輝いた。少女側水晶玉を手に取ったときから少女には恐ろしい運命が待っていた。背後から突然忍び寄る影。突然体が縮み猫に襲われる少女。猫から逃れるためによじ登った柱は人間の足だった・・・
少女はいつしか森の中を歩いていた。緑の美しい森だった。うっそうとした森の中を続く径を歩いていくと、行く手に光るものがあった。
それは小さな水晶玉だった。
少女が水晶玉を手にとると。その手の中で美しく輝いた。少女側水晶玉を手に取ったときから少女には恐ろしい運命が待っていた。背後から突然忍び寄る影。突然体が縮み猫に襲われる少女。猫から逃れるためによじ登った柱は人間の足だった・・・
少女は、公園のベンチで恋人を待っていた。ひとりでベンチに座っていると、若い男たちがナンパしてきた。しつこく絡まれて困る少女を見かねてか、ベンチのわきにいたホームレスの男が立ち上がった。
ホームレスの男は、絡んできた男たちに殴られっぱなしにされてしまったが、少女は無事だった。助けてくれたホームレスの男に、少女はお礼を言った。
「君はやさしいんだねぇ。」
突然、男は少女の腕をつかみその小さな手を上に向けさせ、その家に小さな水晶玉を乗せた。
「これお嬢さんにあげる」
水晶玉は、不思議な感じがした。少女が水晶玉を覗き込むと、そこには少女自身の姿が映り出されていた。水晶玉の中の少女は、どこか見知らぬ異国の世界で王の前に立たされていた。
「私が一体何の罪を犯したというの」
「お前は若くて美しい。そのために世の男たちの心を乱している。」
少女は拷問を受けることになった。
そこは小さな部屋だった。部屋の真ん中には洋式便器が。部屋の床は透き通っていて、下から食い入るように眺める男たちの目線があった。
突然少女はコロシアムの真ん中に立たされていた。少女の手には剣があった。その剣で少女は、群がる男をたちを殺していった。やがて疲れ果てた少女は倒れてしまった。
気がつくと、少女の体には数え切れないほどの小人たちがよじ登り少女の体を好き放題していた。小人は少女の手よりも小さく弱そうに見えたが、少女は小人に対して何もできなかった。少女は動こうにも手足を縛られていた・・・
劇画の王道を歩いている池上氏が、こういったファンタジックな作品を描くとは思いませんでした。しかも、池上氏の作品にめずらしい少女を題材にしているのです。池上氏の描く女性は、ふくよかなコントラバス曲線を持ったタイプは少なく、さりとて痩せてもいず、独特の風味のある女性で占められている。ここに描かれた少女は、その延長で描かれているが女性的な香りはない。未完全な性の少女であり、そうした少女が男の性の対象となっている様は、現在の日本の象徴と言えます。
第2話の小人達に縛りつけられた少女は、まるでガリバーのようですが、この作品にガリバーの香りはありません。水晶玉をウサギと置き換えると不思議の国のアリスとダブって見えることから、この作品はまちがいなく池上流アリスの世界です。
アリスは未成熟な性の象徴として、多くの作品の中でテーマとして取り上げられていますが、この作品にもそういった流れをくみ取ることが出来ます。少女アリスが不思議な経験を通してもなお未成熟な女であたのに対し、この作品の少女は官能的な危険な世界を通して女に変っていきます。しかしそれは性的な目覚めではなく、もっと奥底にある欲望もしくは希望として描かれています。
記事公開日:2000.07.16
記事更新日:2004.09.17
著者 | 池上遼一 |
発行 | 文芸春秋 |
初版 | 2000年5月25日 |
ISBNコード | ISBN4-16-090067-4 |
価格 | 本体価格952円 |
サイズ | A5・平綴 |
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