桑田次郎の代表作になります。8マンは人間に似せて作られたアンドロイド(ロボット)です。クールな線の桑田次郎の絵は、SF、特にロボットやメカニズムが多く出てくる作品にぴったりだと思います。
8マンという作品は、当初週刊少年マガジンに連載されていましたが、その後アニメ化されました。作品が連載されていた1960年代は、日本が戦後の影から今ひとつ抜け出られない時代だったと言えます。本作品に限らず多くのマンガ作品で、何かしらの戦争の影を感じ取ることが出来ます。8マンでもそういった影を感じますが、特にこのエピソードは放射能に対する脅威を盛り込んだ形になっています。放射線の及ぼす影響についてまだ知識の浅かったころの話で、また実際に政府機関や研究所で放射能を使っての放射線の影響実験を行っていることが一般の関心事でもあり、そうした世相を取り入れたエピソードと言えます。
被爆したナミは、被爆者に対する偏見も含まれているようにも見えますが、作者達の意図はもっと別の所にあったのだということは、作品を読めば分かります。言うまでもなく、放射線は人の五感では感じられずに肉体に影響を与える物です。そうした恐怖が増幅された形で具象化したエピソードなのです。放射線が生物に与える影響など研究が始まったばかりであり、また平和利用の原子力も技術的はまだ途上であったことから、放射能はホラーの要素としてマンガに取り入れられることが1970年代ごろまでは良く見られたと思います。
このエピソードで面白いのは、生きる人間が影響を受けてしまう危険な区域に、無機質な8マンが問題ともせずに普通に活動していることです。また、影響を受けた人間が悪魔的な存在になり、無機質なはずの8マンがより人間的な存在に見えるところです。人間の本質は何か、生きるということは何かを問いかけているようなエピソードになっています。
ところで8マンはアンドロイドで、何か原則的な思考回路を持っているようです。基本的にはアシモフのロボット3原則に従っているように見えますが、時として悪人を殴りつけたりするので独自の原則があるようです。人間に似せて作られたロボットというよりも、人間の頭脳を持ったサイボーグのようにも見えます。
桑田氏の漫画はSFにありがちな理屈っぽさが少なく、エンターテイメントに徹した作品が多いのが特徴です。そのセンスは現在でも通用するのではないかと思えるようなものが多いのも特徴のひとつです。
さて社会的営みにおいて人間として生活するのは、スーパーヒーローにありがちなパターンです。8マンの職業は私立探偵で、その名前は東八郎(あづまはちろう)と名乗っています。8マンの名前はあまりに有名ですが、この設定についてはあまり知られていないようですね。
本文中の敬称は省略させていただきました。