山本弘 作品
公開日:2009.04.16
更新日:2009.04.16
■物語
世界中に出現する怪獣は地震や台風と同じ自然災害として、それぞれの国が対応していた。日本では気象庁が怪獣災害を専門に取り扱う取りチームを作り対応していた。気象庁特異生物対策部、通称「気特対」。彼らは怪獣と対峙しても怪獣に直接攻撃を行うことは無い。怪獣の危険度を推し量り、対処方法を検討し、攻撃の必要があれば自衛隊に出動を要請するのだ。
対応を誤れば、大災害となる怪獣災害。怪獣の被害予測は、MMという単位で表されるモンスターマグニチュードによって行われる。MMの大きさによって対応を検討するのが、気特対の主な仕事だ。MMは主に怪獣の質量で決まり、MM5以上であれば怪獣の存在そのものが危険であると判断され、直ちに攻撃をしても良いとされている。そしてMM9は観測されたことはない。
怪獣の全てが判明している訳ではなく、気特対は現場で臨機応変な対応を迫られ、予測通りに行かないことも多々あった。
岐阜市に現れた怪獣6号は、これまでの怪獣とは見た目に大きく異なっていた。その見た目は、まだ幼い少女。20mも身長があるのを除けば、人間の少女と全く変わらない。巨大少女は、足下にある自動車などをおもちゃにしながら市内を悠々と散歩していた。しかも間の悪いことに気特対の出動前に民間のメディアがテレビ放送を始めてしまったのだ。
市内で巨大少女の対応に追われる中、巨大少女が現れた山腹も調査されていた。そこにはカルト教団との関連を示す証拠が次々と見つかっていた。巨大少女の出現は、テロの可能性もある。その上、もしかすると怪獣ではなく人間が巨大化した可能性も否定できない。ヒメと正式に呼称が決定され怪獣として扱い始めたものの、気特対をはじめ関係筋は対策に苦慮していた。そんな誰もが手をこまねく中、気特対隊員の一人が意思疎通を図ろうと、ヒメに試みたのだった・・・
■解説
物語の説明( あらすじ)だけでは、この小説の面白さが伝わらないのが残念です。物語の面白味もさることながら、スピード感あふれる軽快な文章には、この厚さの本を一気に読んでしまう魅力があります。物語全体はウルトラマンを代表格とする巨大ヒーロー作品のオマージュになっていますが、隅々にまで染み渡った他の作品へのオマージュででもあります。SF作品というよりもテレビシリーズのノベライズといった香りのする演出がされているのも、面白さのひとつです。
巨大生物SF作品のパロディが含まれているのですが、どの作品のパロディなのか枚挙にいとまがありません。読んでからのお楽しみにしていただければと思いますが、少なくともこのサイトに来ている方なら、思い当たる作品が多数あるはずです。
特筆すべきは、第2話の「危険!少女逃亡中」です。サイズフェチの匂いがプンプンとします。SF作品として書かれていながらも、巨大な裸の少女という発想によどみを感じられないのが恐ろしいくらいです。少女というよりも幼女と呼んでもおかしくないような見た目に幼い巨大な怪獣ヒメ。ヒメが、この物語の中核となっていくあたりは、非常に読み応えがあります。第2話と最終話以外のエピソードは、物語全体を支えるためにだけ存在すると言っても過言ではありません。とはいえ不要なエピソードがある訳ではなく、物語の背景を理解する上では必要なのですが、ヒメの登場するエピソードは他のエピソードと違い、怪獣ヒメの目線で書かれていたりもします。非常に興味深いエピソードであることは、間違いありません。
ヒメの存在意義は読んでからのお楽しみに取っておくとして、大人でも少年でもなく少女であることは、この作品の持ち味に大きく影響しています。ヒメと気特対隊員との関係、特に藤澤さくらとの関係において少女ならではの交流があります。ヒメが少女ででるからこそ、巨人少女を単なる色物として終わらせないように織り込まれたエピソードがあり、それがまた作品の魅力に繋がっていると思います。そうした細かな部分に、作者の想いのほどが感じられる作品です。
このサイトの訪問者の方には、是非とも読んでほしい作品です。
■MM9
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