ミュータント花子

戦争画RETURNS参加作品

会田誠 作品

あらすじ

英霊の力を招き入れた花子はアメリカをひと跨ぎ出来るほどに巨大化した

1945年7月。場所は沖縄。花子は日本を守るために竹槍の訓練にいそしんでいた。そんな花子は毎晩のように天皇陛下の夢を見ていた。夢の中で陛下は花子を選ばれた戦士と呼び、同士とともにアメリカをうち滅ぼうすように言うのだった。

同じような夢を見た若者が鹿児島にいた。特攻隊基地から飛びッ立った戦闘機の中で純一は、昨夜の夢を思い出していた。陛下の言葉の中にでてきた女性の名前、花子とは誰のことなのだろうか。

ついにアメリカ軍は沖縄に上陸してきた。捕虜にされた花子は、アメリカ軍の指揮官に手込めにされそうになっていた。まさにその時、純一の戦闘機が特攻してきたのだった。しかし司令官は不死身だった。

純一と花子は捕虜となり、いたぶられていたが、花子は隙を見て爆撃機の荷物の一つに逃げ込んだ。しかし結局見つかってしまい、花子は原爆に縛りつけられ、爆弾と一緒に投下されてしまったのだった。

巨大なキノコ雲。広島は多くの犠牲者であふれていた。雪子の亡きがらを見つけた父親は雪子を火葬するために町外れに運びだしていた。その道すがら真っ黒に焼けただれた遺体を見つけた雪子の父は、その遺体を雪子とともに運び、火葬の壇上に載せ、そして火をつけた。するとどうしたことだろう、真っ黒な遺体がふたつに割れ中から、全裸の少女が出てきたのだった。全身の毛を失った、その少女こそ放射能で超能力を得た花子だったのだ。

花子は雪子の遺髪をもらい、そして日本のために超能力を使い戦うのだった・・・

(c) Makoto Aida

解説

「巨大フジ隊員VSキングギドラ」などの作品を製作した現代美術家の会田誠氏。もともとこの本は「戦争画RETURNS」というシリーズのひとつとして製作された作品です。オリジナルは約350部が製作されたそうです。オリジナルは、わら半紙にコピーされホチキスで止められた粗末な代物でした。当初の目的が何であったにせよ、ABC出版から本として出版されたこの作品、芸術と呼ぶよりも「まんが」として評価したほうが妥当だと考え、このコーナーで紹介することにしました。

あらすじでは、かなりはしょりましたが、この作品は差別と受け止められてもしかたのないような表現や、戦争の取り上げ方などに反感を買う恐れのある表現がふんだんに盛り込まれています。このあたりは、芸術に興味のない方がみてどのように受け取るか予想ができないと、会田氏も危惧しているところです。

そういった会田氏の危惧をよそに、大胆にもまんがとして取り上げることにしましたので、そのように解説させていただきます。

花子はクライマックスで、怪物化したルーズベルト大統領を倒すために巨大化します。巨大化する前、あるいきさつから花子の姿は、まるでセーラームーンの主人公のような雰囲気の少女に変身します。そしてその姿で巨大化。巨人となった花子は、残酷無比に変貌します。アメリカをひとまたぎにした花子は、ルーズベルトを指で軽く潰してしまいますが、最終的な目標はアメリカの殲滅です。花子はアメリカのうえでしゃがみ込み、そしてあることをして殲滅してしまいます。この時アメリカ人は、空に広がる花子のお尻を見ていたわけですが、それはさぞかし恐ろしい光景だったと想像します。そのあとは作品を読んでいただきたいと思いますが、想像を裏切らない展開です。

この作品を通して、会田氏の吹き出した煩悩に触れることが出来ます。幼少の子供がエロ本を創ったように装っている煩悩の数々。執念のようなものを感じます。ふつう、これだけのものを描くと最初と最後で絵柄が変わってくるのですが、この作品は一貫した絵柄で貫かれており、その辺に作為的なものを感じます。また、一コマだけ妙に入れ込んだコマがあり、そのコマだけはまんがではなく、会田氏の他の作品に通じるものを感じさせます。すべては計算通りといったところでしょう。しかし、この作品はどうみてもまんがにしか思えません。そして、この作品をまんがとして読み通すと、作者の考えの及ばない読者の解釈がまちがいなく出てくることを保証します。

なお会田誠氏につきましては、コラム「六本木クロッシングを見て」でも取り上げました。

Published : 2001.03.02
Update : 2004.09.17

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