嵐の夜、事件は北軽井沢で起きた。山道を急ぐトラックの行く手を拒むもの、それは信じられないことにトラックと同じくらいの大きさの人間だった。驚き何も出来ないでいる運転手の前で、巨人はやがて塵となって消えた。
東京で開かれる日本医学会の定例研究発表会では、小早川博士の発表に注目が集まっていた。小早川博士は双子で、兄は電子工学で大きな成功を収めている工学博士。今回の発表は弟の小早川医学博士が2年間もの間、北軽井沢に引きこもって行ってきた研究性の成果が発表されるはずだった。しかし小早川医学博士は、何の発表も行わずに現状の地球環境破壊を問題にするばかりだった。
藤本正男は、健康だけが取り柄の平凡な会社員だ。その藤本は、弟の明男の教育だけが生き甲斐だった。ある日正男は、小早川医学博士の助手である古場の策略にはまり、やむなく人体実験の被験者になることを承知する。古場は正男が実験に入った後、明男を眠らせ誘拐し、さらにはトランクに詰めて崖から落とし亡き者にした。しかし、明男は奇跡的に助かった。
小早川医学博士の望んだ被験者とは、身寄りのない天涯孤独であり、健康であり、そして自ら真に同意したものだった。小早川医学博士は古場の連れてきた正男が、この条件に合致していないことなど知らなかったのだ。そんな小早川医学博士の気持ちとは別に、実験は順調に進み、一人の巨人が生まれた。彼こそが小早川医学博士の理想郷となる地球にするための救世主、神そのものだった。
神となった正男の行動は小早川医学博士の台本にそって進められた。
その台本は、人々の前に降臨するところから始まった。光と共に現れ神社を倒壊させて現れた巨人に人々は驚いた。逃げ惑う人々の中に車椅子に乗った少年がいた。彼は逃げ遅れたが、正男はその少年を手のひらに載せると、コントロール5を投与した。
コントロール5。これこそが正男を巨人にした薬であり、奇跡を起こす薬だった。そして奇跡は起きた。正男の手のひらから降りた少年は、自分の足で立ち、そして歩き始めたのだ。
その場に居合わせた人々は神の降臨を信じた。(PART.1より)