ドリーム・ガール

必勝 電脳学園

中田雅喜 作品

あらすじ

大江は、まじめだった。

体感ゲームが本当に問題かどうかを自分の目で確かめなくては気が済まなかった。そうして大江は、学校の承諾を得て体感ゲーム「ドリームガール」を偵察しに来てたのだった。

そう、大江の職業は高校教師。しかも生徒指導担当で生徒にかなり厳しい先生として通っていた。しかし、一方的に生徒を叱りつけるタイプではなかった。そうした性格から、職員会議で問題になったこのゲームを自分で体感するべくゲームセンターにやってきたのだった。

ドリームガールとは架空の娘を育てるゲームで、育て方によって変化する娘を楽しむゲームだった。大江はバーチャルマシンのヘッドセットをつけ、ゲームの世界に入っていった。娘の名前はモモコにした。

驚いた、これが噂の体感ゲームか? それが体感ゲームに対する大江の第一印象だった。

驚く大江の前にモモコが現れた。さらに驚く大江。どう見てもプログラムに思えない。なるほどこれでは、男子生徒は一発でとりこになるだろう。モモコの今月のスケジュールを決めるのは親である大江の役目だった。学校で何を先行させるのか、クラブ活動は何を選ぶのか、進学塾に通わせるかそれとも情操教育に力を入れるのか、そういったことで娘の性格が変わり将来も変化するというゲームだった。

大江は、まじめだった。

学校は神学校、クラブは体育系、進学塾に通わせ、早朝マラソン。そしてとうとう、大江のあまりに厳しい教育に、モモコは家出してしまったのだった・・・

解説

中田氏もデビュー当時と比べるとだいぶアカ抜けました。それでもやっぱり中田氏の作品は中田氏の個性が強く出ています。初期の作品から比べると、だいぶ重みのある内容を描くようになりました。例えば、これまでは生徒の側から学校生活を描くことがほとんどだった中田氏ですが、この作品では先生の側から見た生徒たちの生活が描かれています。これは中田氏自身が歳をとった証拠なのでしょう。しかし、そこに描かれている生徒たちは大人の視点からの子供たちではなく、あくまでも子供の視点から見た生徒たちの生活がそこにあります。そのあたりに歳に流されれるだけの、一般の大人たちとは違うところを見せつけています。それに加えて中他流のストーリー構成が、隠し味となって味のある作品として仕上がり、以前にも増して面白みのある作品にしています。

さてこの物語の主人公大江は、本当の巨人になったわけではありません。バーチャルリアリティーの世界でマップコマンドともいえるミニチュアの街を扱っているだけのプレーヤーです。しかしそれは親として子供の様子をうかがうコマンドであり、それはゲーム世界の神様の視点であるのです。様と同じよう子供に命令してくる親というのは、まさしくこの大江のようであり、子供にとって巨大な存在です。巨人となって四六時中子供を監視することができたらと思う親は多いに違いありません。しかしそれは、子離れできない情けない親であり、子供は敏感にそうした情けない親の心情を感じ取るものなのです。大江は子離れしているつもりだったが、このゲームをすることで、そうした子供離れできない親であることを自覚します。そうした姿に、大江自身がうんざりしていく様はとても面白く描かれています。こうした厚みのある話をさらりと書き流すところがなかった子らしい作品だと思います。今の世のお父さんやお母さんは、こうした作品を読むことはないと思いつつも、そうした子離れできない親に読んでもらいたい作品です。

紹介している中田雅喜氏の作品

G-ZONEではこの他に下記の中田雅喜氏の作品を紹介しています。

記事公開日:2000.07.17
記事更新日:2004.09.17

必勝 電脳学園

発行 潮出版社
初版 平成6年12月10日
ISBNコード ISBN4-267-90275-5
価格 本体価格544円
サイズ B6・平綴
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