この短編集には26編の短編が収められており、そのどれもが良く知られた童話をモチーフに倉橋氏が書き下ろしたものです。
童話は荒唐無稽を信条とするようなものが多く、また登場人物の心理などはいっさい無視した構成になっているものがほとんどです。実はそうした童話のほとんどが、原作ともいえる民話を子供向けに脚色するために、都合の悪い部分を削除または改変した結果、構成がおかしくなってしまったものなのです。都合の悪い部分というのは、政治的に都合の悪いもありますが、露骨な性表現なども非常に多く含まれています。
一寸法師という物語の原作も、他と同様、とても子供に直接お話できるようなものではありません。色艶事も多く、またスカトロ趣向もある上に暴力的な表現もみられ、読みどころ満載のエンターテイメントな小説なのです。言い方を変えれば、子供向けには都合の悪い部分が満載なのです。もしこのまま子供に読み聞かせたら、その子はショックを受けるか、親に性のあり方について質問することになるでしょう。
一寸法師の原作は御伽草子だとされています。しかし御伽草子の一寸法師は、日本各地に存在する土着の小人民話をまとめて脚色し直したものなのです。民話の再構成を丁寧に行っただけに、構成された物語として良くまとまっています。
原作がそのような案配ですから、御伽草子を現代語訳に書きなおすだけでも十分大人の童話といえます。倉橋氏はグロテクスな部分を排除した上で読み物として楽しめるよう手を加え、軽い感じの読み物に仕立てています。