人間ではないが、限りなく人間に近く、その姿は人間の子供・・・それが小人類(ちゃいるど)だ。
人間から進化した怪物・・・ジャンク。そのジャンクを相手に戦い抜きいた小人類・・・それが雛形平次だった。その平次の目の前にジャンクを統率していた黒幕、前園が現れた。前園を倒そうとする平次に、前園は提案を持ちかけてきた。それは、命乞いの提案ではなく、戦勝者への褒美だという。
前園の提案は、平次の体の中にいる淵島幽子との分離だった。それにはもう一度融合する前の鴨に戻り、生まれ直せばよいというのだ。平次の目の前で前園はジャンクの死体をむさぼり始めたかと思うと、その量に比例して巨大化を始めた。そして平次の前で、巨大な股を広げ、平次にそこに入るように言った。
平次は前園の体の中を子宮に向かって進んでいった。それは過去に向かう旅路だった。体の中を奥に進むにつれ、平次が取り込んで融合していったものが分離し始め、そして平時は過去の状態に戻っていった。平次がさらに進んでいくと、そこは子宮ではなく、過去の世界が平次を待ち受けていたのだった。
平次は第2次対戦中のドイツにいた。平次はジャンクと戦っていたことなど忘れ、子供のころに記憶に戻っていた。そして、ドイツ軍の研究施設で拝辞が見たものは・・・
(c) Makoto Ogino 2000
解説
2004年、人類はようやく自分を構成する情報であるヒトゲノムの一通りの解析を終えることが出来ました。とはいえ塩基配列の解析が終わっただけで、ゲノムの謎を解明する為の基礎を構築したに過ぎません。その分析が過去の、そしてこれからの人類を知ることになるでしょう。DNAを調べることにより、大きく2つの事柄が判ると目されています。ひとつは遺伝子によって発現する病気の予知と治療。また老化現象など、生命維持の謎が解き明かされると考えられています。そしてもうひとつが、人類進化の道筋。どのように人類が他の種から枝分かれしてきたか、考古学的見地とは別の角度から解明されると期待されています。
こうした仮説を大胆に盛り込んで発展させたこの作品は、将来古典SFの仲間入りをするにふさわしい資質を持っています。SFの古典と言われている作品たちは、常に新しい科学仮説をとりこみ、その先にあるものを予見、または斬新なアイディアで人々を魅了してきました。この作品にはそうした要件が揃っています。また、SFにはエンターテイメント性が必要なのですが、この作品にはそれにプラスして人間とは何かというSFらしい命題を持っています。それをどう受け止めるかは、この作品を読んだ方にまかせることにします。
さて、全7巻にまとめられた作品ですが、立ち消えた伏線も多く、おそらくこの作品はもっと大掛かりな仕掛けとともにクライマックスを迎えるはずだったのではないかと思われます。それでも計算された構成は見事であり、最初からじっくりと読んでいくことによって、緻密に構成された世界を理解しつつ、クライマックスに到達できるようになっています。クライマックスでは進化の速度が速まり、その中で進化の象徴としての巨人が現れます。
この巨人のアイディアは、メガテリウムと呼ばれている体長6.5mもあるほ乳類の化石から得ています。メガテリウムについては作品中に正しく解説されているので省くことにします。進化の頂点に巨大な体躯があるという視覚的にも判りやすい考えを物語のキーとして使っていますが、こうした生命進化のベクトルが巨大化の方向を向いているという設定は、エンターテイメントとしては判りやすく、視覚的にも演出しやすいのは確かです。しかし、巨大な恐竜が滅んだのは事実で、必ずしも巨大化が正しい進化の方向とは言えません。これも読んでいただければ判ることなのですが、作者である萩野真氏自身も進化の方向として巨大化が正しいとは考えていないようです。
記事公開日:2001.02.21
記事更新日:2004.09.17
小類人 《第7巻》
著者 | 荻野真 |
発行 | 集英社 |
初版 | 2000年1月24日 |
ISBNコード | ISBN4-08-875869-2 |
価格 | 505円 |
サイズ | A5・平綴 |
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