王女メリサンドが生まれたとき、母である女王は洗礼命名パーティを開きたいと望んでいた。しかし、父である王は命名パーティを行った後で、様々なトラブルが発生するのを何度も経験していたので、あまり乗り気ではなかった。
そして王の心配は現実のものとなってしまった。
命名パーティに妖精マリボーラを招待しなかったのだ。正確には招待状を出したが、マリボーラの元には届かなかったのだった。そして今、妖精達は城に押しかけて、招待されなかったことを非難しているのだった。女王は苦し紛れに、命名パーティは行わなかったのだと言ったが、妖精達は女王の嘘をいとも簡単に見抜く力があった。そんな混乱の中、邪悪な妖精の中でもっとも歳を取ったマリボーラは、女王の前に進み出ると言った。
「私は洗礼命名に素晴らしいプレゼントを添えることにしたと、今ここで妖精の王に誓う・・・王女にはげを与えよう。」
それを聞いた女王は気絶してしまった。そして女王が目を覚まし、王女の頭から帽子を脱がすと・・・帽子と一緒に金色の髪は抜け落ちてしまった。
王女の頭は、まるで卵のようにつるつるだった。
王は王女が不敏でならなかった。そこで王の名付け親となった妖精教母に、一通の手紙を書き、蝶に託して送った。そして小さな小箱とともに返事が帰ってきた。王はさっそくメリサンドに小箱を使わせることにした。
メリサンドは小箱を開けながら、望みを願った。
「私の髪の毛は1ヤードの長さで、毎日1インチ伸び、切られるたびに二倍に成長する」
願いはかなえられた。そして王女の頭には、金色の髪が流れる水のように備わっていた。
しかし、メリサンドは計算違いをしていた。メリサンドの髪は毎晩1インチ伸び、3ヤードの長さになるまでに数ヶ月とかからなかった。あまりに長い髪の毛を切り、すっきりしたメリサンド。しかし、髪を切った後では、以前の倍の速度で髪は伸びていったのだった。
「はげのほうが良かった。」
メリサンドは心底そう思うようになった。メリサンドは髪を切ることもできず、長い髪で歩くこともできず、彼女の部屋は彼女の髪の毛で一杯になっていくのだった。
その年は飢饉でした。国を養うには、何かを売らなければならなかった。そしてメリサンドの髪の毛は、国の重要な輸出品になった。しかし、飢饉も永遠に続くわけではなかった。
王は再び、妖精教母に一通の手紙を書き、ヒバリに託して送った。今度は手紙だけだった。王はさっそく手紙の通り、メリサンドの夫となるべき王子を探すことにした。しかしなかなか見つからなかった。
メリサンドがフローリゼル皇太子に会ったのは、その年の真夏の夜のことだった。窓にメリサンドを見つけた皇太子は、メリサンドの許しをもらうと、さっそうと窓辺に登ってきた。そしてふたりは愛を誓い合った。
フローリゼル皇太子はメリサンドを部屋から誘い出し、髪の毛を使って姫を地上に降ろすと、メリサンドの髪の毛を切ってしまった。ところが不思議なことにメリサンドの髪の毛は伸びることはなかった。
翌日、朝食の時、王の前でフローリゼル皇太子は説明をしたのだった。王はまだどこかに心配の種を残していたが、それはメリサンドが朝食の席を立ったときにあらわになった。メリサンドは立ち上がった、そしてさらに立ち上がり、そして・・・成立したメリサンドの身長は9フィートに達していた。
夕食の時刻になるころには、彼女は部屋に入ることが出来ない大きさにまでなっていた。メリサンドが泣くと、庭にプールのような水たまりができ、給仕の何人かがその中で溺れていた。そして、成長は止まることが無かった。不思議なことにメリサンドともに服も一緒に大きくなっていた。宮殿の庭にもいられない巨大な体は、まるで山のように人々の目には映った。
王は泣くことなく状況を把握しようとした。そして三度、妖精教母に一通の手紙を書き、イタチに託して送った。しかし今度は、妖精教母は引っ越したというメッセージだけが帰ってきたのだった。
そんなおりに隣国の王が軍隊を送ってきたのだった。軍艦が押し寄せ、大軍が上陸した来た。しかし軍隊は、巨大な姫の手に捕まえられては、彼らの乗ってきた軍艦に降ろされるだけだった。巨大な姫に阻まれて、何も出来ない軍隊は、次の作戦を練ることにした。
その間にもメリサンドは巨大になっていった。すでに祖国である島は、巨大な姫の重さに堪えかねているようだった。メリサンドは足を海にいれてそこに立った。海の深さが足首をやっとぬらす程度の浅瀬に感じるくらいに巨大になっていた。そのメリサンドの足もとで軍艦が島を攻撃する準備をしているのを見た。巨大な足で軍艦を蹴ると、簡単に沈んでしまったが、そこに多くの水兵が乗っており、今の一撃で多くの命を奪ったことに、メリサンドの心は痛んだ。
争いを好まないメリサンドは・・・