ゆみこと倭守夕子の関係は、物語の核ですので解説する野暮なことはせずに、ここでは上藤作品について解説することにします。それと倭守夕子の巨大化能力については「精霊特捜」で解説しています。
上藤政樹氏の描く物語のベースには、いわゆる特撮モノ的でありながらオカルト要素を持っています。オカルト要素といっても、それは円谷が描いてきた得体の知れない人外の何かというものであって、心霊現象とは違うものです。ウルトラQの延長にあるような世界で、美しいヒロインが物の怪と対峙すると言った方が良いかもしれません。そういったオカルト的な雰囲気をSF仕立てにした物語が上藤作品の世界であり、その意味でこの作品は上藤氏らしい作品と言えます。
美女体型のグラマラスな体がより強調された絵柄は、作者の好みの反映であることに間違いありません。実際、グラマラスな体が絵柄だけでなく、シチュエーション的にも強調された長身女性であったり、さらには巨大化までしてしまうのです。強く、大きく、美しいという三拍子が、上藤作品の真骨頂といえるヒロインの姿です。特にヒロインの巨大化は他の作家が躊躇する領域でもあり、書き手の妄想が一番色濃く出ている所だと言えます。
見上げればそこに美しく豊満な体が空を隠すようにたたずむ光景は、作者の思い描く理想の風景なのかもしれません。ましてや、空が見えないほどの大きく、誰よりも強靭で美しい体がピンチに陥っているという状況。皆が助けたいと願っても、誰よりも大きくて強い肉体を守ることができない歯がゆさが、上藤氏の願望そのものなのでしょうか。子供の頃に見たウルトラマンがもし美女だったら…そんな妄想が作品として現れています。
ウルトラマンと上藤作品の巨大ヒロインには多くの共通項があります。まず初めて目にした地球人にとってウルトラマンは、単なる巨大な宇宙人でしたから怪獣のように暴れる危機感を持って迎えられました。上藤作品では、美女とはいえ巨人は巨人ですから、怪獣扱いされます。またウルトラマンは必ずピンチに陥りますが、上藤作品でも必ずヒロインはピンチに陥ります。また諸説ありますがウルトラマンは着衣がなく、言い換えるなら裸の巨人ですが、上藤作品では巨大美女は裸あるいは裸に近い容姿です。単にエロだから裸の女性ということでもなさそうです。巨大ヒーロー物のセオリーを真っ直ぐに表現しています。
ところで、一般的にヒロピンとして知られるヒロインピンチ物ですが、ヒロピンの中にあって巨大ヒロピンは、特異な存在であると言えます。多くのヒロピンが、敵に囚われ助けを得られない状況に陥るのに対して、巨大ヒロピンでは主人公のヒロインは衆目にされされたままピンチに陥ります。助けを得られない点でシチュエーションに共通性はありますが、方や密かに捕われるのに対して、衆目にピンチ状態が晒されるところが、巨大ヒロピンの特異点と言えます。巨大故に誰も手が出せないその歯がゆさと、ピンチに陥るヒロインの状況を野次馬する群衆が、巨大ヒロピンの特徴と言えます。
こうした巨大ヒロインピンチ作品は、漫画に限らず徐々に数を増しています。しかし、そのヒロピン状況をお祭りのような盛り上がりで迎える野次馬達が描かれる作品は、非常に少ないのです。巨大ヒロインのピンチを野次馬する群衆の盛り上がりは、上藤作品における巨大ヒロピンの特徴と言えます。